異変、そして襲撃
東の森の異変の調査を決意した俺とミリアは、入念な準備を始めた。父上には、森の調査に行くことを告げたが、危険な場所であるため、リリアさんを同行させるように言われた。リリアさんは、俺の身を案じて同行を申し出てくれたのだ。彼女の心配そうな顔を見ると、俺は改めて、この異世界で得た家族の温かさを感じた。
「デイヴィッド様、決して無理はなさらないでくださいね。何かあったら、すぐに私を呼んでください」
リリアさんは心配そうに俺の顔を見た。その瞳には、俺への深い愛情が宿っていた。
「大丈夫だよ、リリアさん。ミリアもいるし、俺も強くなったから。それに、リリアさんがいてくれると、すごく心強いよ」
俺は笑顔で答えた。リリアさんの回復魔法は、ミリアとは異なる系統で、肉体的な回復に特化している。彼女がいてくれることで、俺たちの安全は格段に高まるだろう。
数日後、俺とミリア、そしてリリアさんの三人は、東の森へと足を踏み入れた。森の入り口からすでに、不穏な空気が漂っている。木々は枯れ、地面はひび割れ、生命の気配が感じられない。まるで、森全体が死にゆくかのようだ。
「これは…本当に呪われているようですね。教会の古文書に記されていた『死の瘴気』に似ていますよ…。」
ミリアが顔を青ざめさせました。わたしの言葉に、俺も身が引き締まる思いでした。
「気をつけよう。何か異変を感じたら、すぐに教えてくれ」
俺は警戒しながら、森の奥へと進んでいく。リリアさんも、聖なる光を宿したロッドを構え、周囲を警戒していた。
森の奥深くに進むにつれて、異変はさらに顕著になった。枯れた木々が不気味な形に歪み、地面からは黒い瘴気が立ち上っている。その瘴気は、まるで生きているかのように蠢き、俺たちの精神を蝕もうとしているかのようだった。そして、時折、奇妙なうめき声が聞こえてくる。それは、苦痛に満ちた叫びのようでもあり、あるいは、何かを求める声のようでもあった。
「デイヴィッド様、あれを見てください!わぁ、あれが…!」
ミリアが指差す先に、異形の魔物がいた。それは、枯れた木々が融合したような姿をしており、全身から黒い瘴気を放っている。その姿は、まるで森の怨念が具現化したかのようだった。
「あれが、森の異変の原因か…!」
俺は、その魔物の強大な魔力を感じ取った。通常の魔物とは明らかに異なる。その魔力は、まるで底なし沼のように、周囲の生命力を吸い取っているかのようだった。
「リリアさん、ミリア、気を付けて!通常の攻撃は効かないかもしれない!」
俺は二人に警告し、戦闘態勢に入った。
異形の魔物は、枯れた枝を鞭のように振り回し、俺たちに襲いかかってきた。その攻撃は、見た目以上に素早く、重い。
「ファイヤーボール!」
俺は火魔法を放つが、魔物の体はびくともしない。炎は魔物の体をすり抜け、まるで幻影であるかのように消えていく。
「効かない…!?」
俺は驚いた。これまでの魔物とは、まるで違う。物理的な攻撃も、通常の魔法も通用しない。
「デイヴィッド様、私が魔物の動きを止めますね!」
ミリアが前に出ました。わたしは聖なる光を放ち、魔物の動きを鈍らせます。わたしの聖なる光は、魔物の瘴気をわずかに打ち消し、その動きを緩やかにしました。
「今ですよ、デイヴィッド様!」
ミリアの言葉に、俺は再び魔力を集中させた。今度は、火魔法の応用で、魔物の内部に熱を発生させるイメージだ。前世の知識でいうところの、分子運動を活性化させるようなイメージ。
「…インフェルノ!」
俺の指先から放たれた魔力が、魔物の体内に侵入し、内部から熱を発生させる。魔物は苦しそうにうめき声を上げ、体が内側から焦げ付いていく。その黒い体から、白い煙が立ち上り、焦げ付くような異臭が漂った。
「ぐあああああ!」
魔物は断末魔の叫びを上げ、やがて黒い灰となって崩れ落ちた。その灰は、風に舞い、やがて森の土へと還っていった。
「やった…!」
俺は息を荒げながら、その場に膝をついた。かなりのMPを消費した。全身から汗が噴き出し、疲労感が襲ってくる。
「デイヴィッド様、ご無事ですか!?わぁ、よかったです!」
ミリアが駆け寄ってきて、俺の体に回復魔法をかけてくれました。温かい光が全身を包み込み、疲労が癒されていきます。その光は、俺の肉体だけでなく、精神的な疲労も癒してくれるようでした。
「ありがとう、ミリア」
俺はミリアに感謝した。彼女の回復魔法がなければ、俺は戦い続けることはできなかっただろう。リリアさんも、俺たちの無事を確認し、安堵の息を漏らした。
異形の魔物を倒した後も、俺たちは森の奥へと進んだ。すると、森の中心に、奇妙な祭壇のようなものがあった。祭壇は、黒い石でできており、その上には、黒く輝く石が置かれている。その石からは、おぞましいほどの魔力が放たれており、周囲の空間を歪ませているかのようだった。
「あれは…『賢者の石』!?」
俺は直感した。あの石から、不穏な魔力が放たれている。それは、俺が前世で感じたことのない、しかしどこか懐かしいような、奇妙な感覚だった。そして、その輝きの奥に、微かに星の輝きのようなものが揺らめいている気がした。
「デイヴィッド様、この石から、強い邪悪な魔力を感じますね…近づかない方がよろしいかと思います…。」
ミリアが顔を青ざめさせました。わたしの言葉は、俺の直感が正しいことを裏付けていました。
「これが、森の異変の原因だったのか…!」
俺は、その石に手を伸ばそうとした。その時、リリアさんが俺の腕を掴んだ。
「デイヴィッド様、危険です!その石に触れてはなりません!この石は、触れた者の精神を狂わせると言われています!」
リリアさんの言葉に、俺はハッとした。確かに、この石からは危険な魔力を感じる。もし、俺がこの石に触れて、前世の記憶が完全に蘇ってしまったら…あるいは、この世界の記憶が失われてしまったら…?
俺は、祭壇の構造を注意深く観察した。賢者の石が置かれている台座には、複雑な紋様が刻まれており、それが魔力の流れを制御しているように見えた。俺は、前世の知識と、この世界の魔術理論を組み合わせ、その紋様を操作することで、賢者の石が供給していた力を遮断できるのではないかと考えた。慎重に魔力を集中させ、紋様の一部を傷つけると、賢者の石から放たれていたおぞましい魔力が、徐々に弱まっていくのを感じた。そして、森全体を覆っていた瘴気も、少しずつ薄れていくのが分かった。
こうして、東の森の異変は解決し、俺とミリア、そしてリリアさんの絆はさらに深まった。しかし、森から戻った俺たちを待っていたのは、変わり果てた街の姿だった。上壁の外の区域は、異形の魔物によって襲撃され、家々は破壊され、多くの領民が傷つき、怯えていた。森の瘴気が街にまで流れ込み、空気は重く淀んでいた。父上が管轄する区域は、特に甚大な被害を受けていた。
俺たちは、その「賢者の石」をどうすべきか、話し合った。このまま放置すれば、森の異変はふたたび発生し、領民の生活を脅かすかもしれない。しかし、この石を破壊する方法も、持ち運ぶ方法も分からない。俺たちは、神官長にこの石の存在を報告し、森の祭壇まで来てもらうことにした。
数日後、神官長は厳重な警護と共に森の祭壇に到着した。彼は「賢者の石」を目の当たりにすると、驚きと畏怖の表情を浮かべた。その顔は、まるで伝説の存在を目の当たりにしたかのように、蒼白だった。
「これは…まさか、伝説の『賢者の石』…!?」
神官長は、震える声で言った。賢者の石は、世界に多大な影響を与えると言われる禁忌の遺物らしい。その力は、世界を滅ぼすほどのものだという。
「この石は、この教会の地下深くにある聖なる結界の中に封印しなければなりません。デイヴィッド様、ミリア、リリア、よくぞこれを見つけてくれました。あなた方は、この世界の危機を救ったのです」
神官長は、俺たちに深々と頭を下げた。その言葉に、俺は、自分たちが成し遂げたことの大きさを実感した。しかし、その喜びよりも、俺の心には、変わり果てた街の姿が重くのしかかっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
第一章の締めくくりとして、東の森の異変の解決と、「賢者の石」の発見、そして街が襲撃され甚大な被害を受けた様子、デイヴィッドとミリア、リリアの絆の深化を詳細に描きました。
「賢者の石」が今後の物語にどう影響していくのか、そして街の襲撃と甚大な被害がデイヴィッドの運命にどう影響するのか、今後の展開にご期待ください!
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