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秋津皇国戦記  作者: 金剛愛宕
プロローグ
1/12

異世界に常識は通じない

稚拙な文章ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。


 微睡(まどろ)みから抜け出すと、そこは寒かった。

 真夏から真冬に反転したかの様な(こご)える感覚に、身体が引き締められた様にに震える。

 急激な温度変化に、俺は混乱を禁じ得ない。


「っ・・・」


 床が固かった。


 先程までベッドに居た筈の俺は、いつの間にか床に落ちたようだ。背中が少し痛む。

 しかし、この寒さはエアコンの設定温度を間違ったとしても低過ぎだった。何故ここまで冷え込んだのかが理解不能。今にも凍りつきそうだ。


 それにしても、妙に(うしお)の匂いがするな。

 なぜだろう?


「ううっ・・・」


 目を開けると、空だった。

 快晴だ。


「知らない天井(てんじょう)どころか・・・天井が無いし?!」


 俺は思わず叫んだ。

 目を覚ましたら、家の天井が無くなったのだ。

 なるほど。意味が分からない。


「・・・え? 海?」


 身体を起こして周囲を見回した。

 360度、海だった。


 俺の家は?

 つか、ここはどこ?!


「ん?ここ、どこかで見た事がある様な・・・あ!」


 それは、写真で見た光景だった。

 大小様々な島々。

 軍都と呼ばれた街。

 現代日本の様な高層ビルは一つも無い。

 それが空襲前の、戦時前の姿で残っているのだ。


 戦艦『陸奥(むつ)』が爆沈し、戦艦『榛名(はるな)』、航空戦艦『伊勢いせ』『日向(ひゅうが)』が大破着底し、空母『天城(あまぎ)』が左舷大傾斜し、重巡洋艦『青葉あおば』が艦尾切断及び右舷傾斜着底し、『利根とね』が大破着底し、駆逐艦『(なし)』が空襲により轟沈した場所・・・


 ググったら出てくる写真で見た光景だ。

 江田島、倉橋島、柱島等の島々が並ぶ”瀬戸内海”である。


(くれ)だ。広島県だ・・・」


 そして、その情景は軍都と呼ばれるのに相応しい戦力を有していた。


「戦艦だ」


 それは、堂々たる雄姿だった。

 大日本帝国海軍が誇る、超弩級戦艦、長門型戦艦・扶桑型戦艦・伊勢型戦艦が鎮座していたのだ。


 八八艦隊最初の艦である長門型戦艦は、建造当初は世界最大だった。それが分かる程の威圧を八門の主砲が放っている。当時の日本国民の象徴であり、堅牢な主楼はユトランド沖海戦の戦訓を取り入れたものである。


 長門型の前級であり、後に航空戦艦に改装される伊勢型戦艦は、艦首側のみ乾舷の高い短船首楼型船体を採用している。目の前の『日向』は五番砲塔事故前の姿である。居住スペースが最悪だったらしい。


 伊勢型の前級である扶桑型戦艦は、設計上問題があり、改修を重ねた艦である。元々は伊勢型戦艦も扶桑型の計画であった艦であるが、先程述べた設計上の問題で、新たに伊勢型戦艦が設計された。海外では『扶桑』は意外と人気があるらしい。


 その、戦艦『長門』『扶桑』『山城』『日向』『伊勢』が堂々の姿を保っているのだ。

 41cm砲、35.6cm砲の大迫力がそこにあるのだ。


 そして俺は、空母の甲板に居た。

 艦橋が無く、足元には大きく『づほ』と書かれている。

 どうやら、艦尾に居る様だ。


 え? 『づほ』?!


「け、軽空母『瑞鳳(ずいほう)』だと?!」

「貴様! 何者だ!」


 俺が驚いていると、背後から女の声がした。


 あれ? 女の声? 帝国海軍に女とは、何が起きているのやら・・・

 そう思っていると、軍靴の音が急速に近づく。


「はっ! 何者だ! 貴様!」

「え? ちょ! へぐぉぅ・・・」


 嘘・・・一瞬で柔道技で投げられた・・・

 なんか足をひっかけられたし。


 肺の空気が抜ける・・・

 息ができない・・・


 あっと言う間に目隠しをされ、固く縛られた。


「おっかしいな~。さっきまでは、この人居なかったのに・・・」

「泳いで来たにしては、服が濡れておらんしな・・・」


 更に、他の女の子の声が聞こえる。なにやら、人が集まってきている様だ。


「おい貴様!名を名乗れ!」

「へぐ・・・と、とーどーでだどぅどー、でつ」


 ダメだ。全然喋れない。語尾の「です」すら「でつ」と聞こえる始末だ。

 名を名乗ったつもりなのだが、これでは多分伝わってない。誰かの肘が俺の頬を的確に突いており、顎は飛行甲板に張り付いている為、呂律がかなりよろしく無い。しかも、徐々に首が絞まって・・・


瑞樹(みずき)ちゃん。離してあげなよ。この人、苦しんでるよ?」

「山田中尉殿。こやつは怪しい者です! それでは・・・」

「でも、死んじゃうよ?」

「え?」


 その時、俺は泡を吹いていたらしい。

 顔がずれてうつ伏せ状態になり、自分の脂肪(にく)が呼吸を塞いでしまったのだ。


「あーっ! 死ぬなー! 死ぬんじゃなーい! 尋問できぬだろ!」


 俺は医務室に運ばれた・・・らしい。



ーーーーー



 そこは、知らない天井だった。

 と言うか、天井があった。


「ぐっ・・・」


 寝心地は最悪だった。

 尻を打ったのか、ズキズキと痛む。ベッド自体もかなり硬いくて辛い。辛過ぎる。

 体は(だる)く、気分も最悪だった。


「あら、気が付いたかな?」

「え?」


 その言葉と共に、軍服を着た黒髪のお姉さんが俺の顔を覗いてきた。歳は30代後半だろうか。黒髪美人の大和撫子である。その人が優しそうな表情を俺に向けてくれている。

 少し、心が和らいだ。


「その、ごめんなさいね。若い者は血が多くて・・・」

「は、はあ・・・」


 この人は、俺に柔道技をかました女の事を言っているのだろう。恐らく。

 本当、一瞬死ぬかと思ったよ。若者の指導をちゃんとしてもらいたいものだね。


「私は桑原狐々阿(くわはらここあ)。今は第三航空戦隊司令をしているわ」

「ど、どうもご丁寧に。東郷治三郎(とうごうじざぶろう)です・・・え? 航空戦隊司令?!」


 【ここあ】って可愛い名前だなって思ってたら、この美人さんは"航空戦隊司令"らしい。戦隊司令は海軍少将や中将が就く事になっている。彼女も海軍少将や中将である可能性が高い。

 よく見ると、彼女は二種軍装だ。しかも、普通に将官飾緒を付けており、襟首の階級章は星が一つ付いてる。肩章も"少将"を表していた。


 あー、提督ですね。この人。


「そうですよ。えっと、小沢治子(おざわなおこ)中将の同期って・・・分かるかしら?」


 江田島の37期ってやつだろう。

 知ってる。知り過ぎている。


「閣下は寺内幸子(てらうちさちこ)海軍元帥大将の姪さんなのです!凄い人なのですよ!」


 話を割って来たのも、黒髪の美人だった。

 白衣を着ており、如何にも軍医って感じだ。白くて綺麗な足が色気を感じる。


「紹介するわ。彼女は軍医中尉の佐藤岬(さとうみさき)よ。君の打撲を確認させたわ。骨折はしていなかったから、安心して良いわよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

「ふふん。これくらい楽勝よ♩」


 軍医さんは無い胸を張った。

 無駄に威張るな。


「それで・・・さっきの話は本当なのか?」

「え? さっきの話って?」


 桑原少将が軍医に尋ねた。それに俺が尋ねる。

 すると、軍医さんは俺を訝しげに見て、こう答えた。


「・・・東郷さんが、男だと言う話ね」

「え? 俺は男ですけど?」

「「え? ええ?!」」


 俺が男だと認めると、二人は俺に迫る様にして驚いた。いや、どうにも話が読めない。何故、男だと聞いて驚くのだ?


「待って下さい、東郷さん。貴方・・・男なのですか?」

「だから、そう言っているんだけど?」


 桑原少将が頭を押さえながら、俺に尋ねた。


「貴方、男だって自覚があるの?」

「いや、あるでしょ普通・・・」


 軍医さんも頭を押さえて聞いてきた。男がそんなに変なのか?


「貴方・・・今までどうやって生きてきたの?」

「いやいや、桑原司令。普通に生きてきましたよ?」


 いや、そんな驚きの表情で見られても・・・


「お前、一体どこで常識を忘れて来た?」

「軍医ちゃんも酷くない?!」


 うん。なんで? 二人の質問が酷い。

 俺、馬鹿にされてる?


「貴方、生まれはどこ? 年齢は?」

「え? 愛媛県の東予市ですよ。年齢は・・・」

「え? 私も東予よ?」


 おお!軍医ちゃんも東予生まれなのか。


「奇遇だね」

「東予に男が生まれたなんて、聞いた事が無いけど?」

「・・・え?」


 今度は俺が驚く番だった。男が生まれたなんて、聞いたことが無い? そんな馬鹿な。


「そもそも、この秋津皇国(あきつこうこく)に、そして全世界に、男が生まれたなんて話は聞かないわよ?」


 秋津皇国? 何だそれは?


「そう。この世界に男がいる筈が無いのよ」

「いやいやいや、そんな馬鹿な・・・」


 ・・・二人とも、どうしてそんな残念な顔で俺を見るんだ?


「・・・本気で言ってる?」

「それはこっちのセリフよ」


 そう尋ねると、軍医ちゃんがそう言って俺を睨んでくる。マジな顔だ。

 だが、よくよく考えれば、彼女の言う事は辻褄(つじつま)が合っている。投げられた時もそうだが、空母『瑞鳳』に男の姿を見なかったのだ。

 そう。軍艦に男が居ないのだ。


 普通に考えれば異常だ。

 と言うか、俺の状況が普通の地球じゃないよね。うん。急に不安になってくる。


「大丈夫?」

「え? ああ」


 どうやら、顔に出ていたらしい。桑原少将に心配された。

 よし、しゃきっとしよう!


「ところで東郷君。さっき佐藤ちゃんが聞いたけど、歳はいくつなの」

「俺ですか? 歳は18です」

「む、若いわね」


 軍医ちゃんが拗ねる様に言った。貴女も十分に若いでしょう。


「私は54歳よ」

「え?ここあちゃん54歳?!」

「「ここあちゃん?!」」


 あ、つい本音が・・・


「は、ははははっ!司令が、ここあちゃん。ウケる」

「ちょ、ちょっと、佐藤ちゃん。なによその反応・・・」

「あはは、司令の威厳が・・・はははははっ」


 俺の言葉が軍医ちゃんのツボに(はま)ったらしく、彼女が爆笑する。笑顔が可愛いな。


「それで、軍医ちゃんは何歳?」

「ん?私は24歳だ。まだまだピチピチでしょ?」


 軍医ちゃんはそう言って、色っぽい表情で足を組んだ。ミニスカなのに中身が見えなかった。


「何よ。なんで反応しないのよ? 何か言いなさいよ! 私の足が汚いの?! 男は女に反応するって言ってたのに! まさか、私がピチピチじゃないって言うの? ババアなの?!」

「いや。見惚れてた」

「えっ?!」


 ミニスカチラリズムに、だが。

 軍医ちゃんはあわあわしながら頬を赤く染めた。

 素材が良いため、その表情はとても魅力的に感じる。


「で、東郷君は男の子なんだよね?」

「はい。そうです」


 桑原少将が改まって聞いてきた。

 そんなに改められたら、何故か緊張する。


「じゃあ、子作りした事ある?」

「ぶっ!」


 思わず吹いてしまった。急にその話?! 何? この世界の男は、すぐに子作りをするのか?!

 いや、男居ないんだっけ?


「そうよね。無いわよね」

「う、無いですけど・・・」


 童貞で悪かったです・・・なんか、悲しくなっちゃうね。

 でも、急に子作りとか、そういう事を男に聞いてきて、桑原少将は一体、何を考えているのだろうか。男が居る実感がないのだろうか。俺は男だと思われていないのではないだろうか?


「・・・この世界の男の価値観って、何なのだろう?」

「国の宝だよ」

「え?」

「例えだけどね」


 俺の呟きに、軍医ちゃんが驚愕の事実を述べた。宝? 男が? なんで? あ、そうか。男が居ないから、子供が作れないんだ。え? 人類絶滅の危機?!


「なんで?」

「それは、男が絶滅したからですよ」

「・・・」


 衝撃の事実!

 人類滅亡間近!

 時、既に遅し!


「お、男って、いつから居ないんだ?!」

「100年くらいだよ」

「私達は植物で増えるからね」


 100年もか。しかも、植物で増える・・・人類はいつの間に不思議生物になったのだろうか?


「どんな植物だ?」

「おち○○キノコよ」

「卑猥極まりないネーミングセンスだな」


 うん。このネーミングセンスには唖然(あぜん)だね。しかも、植物言っている割には菌類だしね。


「おち○○キノコから、アレが出て、それを中に入れるのよ」

「交尾ってやつね」


 桑原少将が卑猥な発言をするのがシュールに感じる。軍医ちゃんは医者として発言している雰囲気なので、違和感が少ない。


「で、東郷くんが良ければ、佐藤軍医中尉と"えっち"して貰おうと思ったんだけど・・・」

「「え?!」」


 ちょっと待って。童貞卒業フラグか? 童貞卒業フラグなのか?!


「な、なんで私が?!」

「たって私、54歳よ? 51の時に閉経したわ」


 わお。めっちゃリアルな理由。


「それに、佐藤中尉は"えっち"な本、大好きでしょ?」


 そう言って、桑原少将が官能小説をベッド下から数冊出して来た。なんと言う平成の王道。

 絵が昭和だけど。時代も昭和か。


 だが、挿絵では男が女を押し倒している。わお・・・


「あーっ! なにしてるのですかっ?!」

「ベッドの下に隠すとは、なんて王道な・・・」

「やめて! 返してっ! お願いします!」

「だーめ♡」


 ふたりがユリユリしてる。

 ほう。軍医ちゃんは白か。しかと見届けたぞ!


「佐藤ちゃん、実は東郷君に期待してるでしょ」

「し、ししし、してないわよっ! じゃなくて、していません!」


 美人熟女司令官と美人白衣軍医とのいちゃいちゃ。艶やかな黒髪が動く度に(なび)く。

 俺もあの中に入りたい。


「東郷君も、佐藤中尉を"えっち"して良いですよ?」

「い、良いんですか?!」

「良いわけないでしょ?!」


 思わず聞き返した。

 それにしても、このやりとりは違和感だらけだ。男の居ない世界とは不思議なものだな。


「それに、佐藤中尉は昇進の機会よ?」

「え?」

「19世紀で初めて、男と"えっち"をした人物として、歴史の教科書に載る程の事よ!」


 マジで?!教科書載るの?!"えっち"で?!


「嫌がっても、上官命令で"えっち"してもらうけど」

「そ、そんな事が可能なのですか?! 桑原少将?」

「勿論よ。東郷少尉!」

「し、職権乱用よ!」


 てか俺、いつの間に少尉?!


「ねえ。佐藤中尉。ぶっちゃけどうなの?」

「え?」

「ぶっちゃけ"えっち"」

「・・・し、したいですけど・・・」


 したいんかい!


「東郷君! やっちゃって!」

「え? あ、はい!」


 俺はその場のノリで軍医ちゃんを襲った。

 軍医ちゃんはノリノリだったと述べておこう。

 

東予市は現在ありませんが、そこはパラレルワールドと言う意味を込めた設定です。

ちなみに、当時もありません。

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