初めての魔法、そしてこんにちは
初めての魔法、そしてこんにちは
あれからしばらく騎士らしき人が戦士たちの指揮を取り、半分の人員が辺りを警戒、並びに安全確認。
残りが後始末のようなことをしていた。
後始末とはあれだ、剥ぎ取りといえばいいのか?
何やらナイフで身体の一部を切り取り、どこからか黒い小さな石を取り出した後、死体を一箇所に集めていた。
そして先ほどから騎士の指揮や戦士達の漏れ聞こえる会話のおかげでだいぶ言語がわかるようになってきた。
まだ一部聞き取れないところもあるけど大体理解出来てきた。
(それにしてもゴブリン達の匂いもきつかったがこのあふれんばかりの血の匂いは赤ん坊には辛いわ……)
そして先程の緊張が解けたせいか、体の方はまた泣きだしてしまったのだ。
(ちょっ、いくらなんでもちょっと気を抜いたからって泣き出すって。
いや、でも赤ん坊なら当然か?)
そして僕が泣きだしたのに気づいたのか、騎士さんが近づいてくる。
「こんな所に赤ん坊を捨てるとは……可哀想に」
「あう~、あうあう~(本当にね~、後ほんの少し遅いだけで今頃ミンチかばらばらか・・・助けてくれてありがとう!)」
そのまま籠ごと僕を抱き上げると。
「それにしても人間の赤子にしかみえんが先ほど変身するところをチラッと見たからな…まさかワーウルフ種とは」
片腕で抱っこされながら頭を撫でられて、そしてワシャワシャと頭をやられながら側にいた多分従士と思われる青年が言った。
「この辺では見ない毛並みでしたね、少なくともこんな所に捨てるのはなにか訳ありでございましょうか?」
(あ~、捨て子スタートのテンプレですな~、止むに止まれぬ事情とか、継承権争いとかで捨てられたりとか)
「だが、今どきワーウルフ種というだけで毛嫌いする者など、それこそ超の付く純血主義ぐらいのものだが……」
話し合ってる騎士たちを他所に捨てられた事情を頭のなかでいくらか想定しながらしみじみ思う。
(神様、もうちょっと穏便な所に転生させてもらえませんでしょうか、もう転生してるから無理か……)
そうこう考えてる内に死体の片付けが終わったのか何やら動きが。
「ベアール様、ゴブリンの死体の処理準備整いました」
「うむ、ご苦労、ではこれより焼却を開始する。火を扱える物以外全員下がれ」
そう号令を飛ばすと、数人が前にでて騎士に横に並ぶとなにやら騎士と共に手をゴブリンに向けて唱えている。
(え?もしかしてこれはあれですか?)
頭のなかでファンタジーには欠かせない物を思い浮かべていた。
そして彼らの詠唱?が終わると次の瞬間
「「「#$%&”$%&%”」」」
手の先から炎がゴブリンに向けて放たれた。
(これだよ、ファンタジーって言ったらやっぱり魔法だよね!さながら火炎放射の魔法っとこかな!うまく聞き取れなかったけどなんとなくで各々で唱えた呪文名が違った気が……)
それからしばらく僕は肉の焼ける匂いの中、その炎を見続けるのであった。
あれから1分ほどだろうか、ゴブリン達の死骸に火が行き渡り、赤々と燃え続ける様になると彼らの魔法も止まっていた。
「後の処理は任せていいか?」
「土を扱えるものと数名残していただければ宜しいかと」
「わかった、俺はこの子を家に連れて帰るから残りの巡回のことは頼む」
「畏まりました」
従士の方は恭しく承諾すると、三分の二の人員を残して歩き出す。
(それにしても大っきいな、2m近くあるんじゃないかな?)
あれから10分ほど騎士の腕に抱かれながら、辺りから見れるのどかな光景を横目に騎士の観察をしていた。
(体格もプロレスラーみたいに体格がいいし、様付けって事は貴族とか騎士団長とかの上役なのかな……あ、鑑定忘れてた)
ゴブリン達による命の危機と、その後の戦闘と魔法の衝撃に鑑定使うのをすっかり忘れていたのだった。
そして騎士をすかさず鑑定すると。
【ベアール=クーゲル】
【性別:男 年齢35歳】
【種族:ヒューマン(混血)】
【職業:クーゲル男爵家現当主、元王国騎士団副団長】
【称号:鉄壁】
(あ~やっぱり貴族なんだ。それにしても元騎士団副団長って事はかなり上にいた人ってことかな?
それにしてもスキルとかHPとかは見えないな、自分のは見れたのに……。これはあれか?鑑定のレベルが低いからとかなのかな?)
っと、そんなこと考えていると急に身体に異変が起こる。
(あれ・・・なんだか眠く・・・)
そのまま抗えない眠気にそのまま眠ってしまうのだった。
再び目が覚めるとそこはちょっと大っきな屋敷の前でした。
(鑑定つかったら急に眠くなった・・・)
少し考えて自分に鑑定を使ってみた、すると
【氏名――――――(名無し)】
【性別:男 年齢0歳】
【種族:ワーウルフ(人化解除)】
【ステータス】
HP6/6
MP3/11
とでた。
(あれ?MPが増えてる?てか人化もいつの間にか解けてる!?)
そしてさっきのスキル隠蔽の時のように調べてみようとするが、その前に騎士様が屋敷の前で叫ぶ。
「今帰ったぞ―!」
そうして騎士様ことベアール様が屋敷に入っていく。
(っとと、そっちは後回し、今はこっちに集中しないと……)
そして屋敷の中に入るとそこにはベアール様を囲むようにして一礼する。
「「お帰りなさいませベアール様」」っと、複数人のメイドさんと執事さんぽい人たちにお出迎えされた。
「今帰った、それからセバスとリーシャは部屋に来てくれ」っと、50台半ばぐらいの糸目の紳士とメガネをかけたTheメイド長といった感じの女性に声をかける。
「畏まりました、しかしその子は?」
「獣人の赤子のようですね…しかし可愛いらしいですね」
「あうあう~(こんにちは~)」
そう言って手を振る。いや動かして挨拶もどきをしてみたんだけど、やっぱり何事も挨拶って大事だよね。
「この子の事で話がある、では先に行っているぞ」
そう二人に告げるとそのまま奥へと連行? されていった。
そんな中思ったことが一つあった。
(それにしても鎧脱がないのかな?)
などと、ものすごく明後日なことを考えていたのだった。