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Muse Night   作者:
7/23

蜘蛛とナッツとライムグリーンの閃光

情報量の多いラノベって読みにくいよね。


実際のコウモリは羽音なんてしません。

 黒い翼は雑踏から逃げ、朝日が昇る寸前の街には吐息が行き交う。男は小さな蜘蛛の巣に向かい、ブツブツと自らの野望を語りはじめる。

「私は昔から英雄になりたかったんだ……。民衆が崇め、自分の価値を認められるほどの……!」

『それが貴様の願いか?』

「あぁ、悪はこの手で断ち切らねばならん……」

 東から昇る光はビル街の喧騒にかき消されて歪な陰影を形作る。垂らした糸にぶら下がった蜘蛛は、英雄志望の冴えない男に力を与える。



 夕方。学校帰りの少女はリビングで寛いでいる。

『ハル〜、冷蔵庫のカシューナッツ食っていい?』

「たまに憑依解除したと思ったら、そんなん食べてんの? ……ってかディークって人間の食事も摂れんの?」

『ディークは雑食だからな……!ほら、どこぞの地縛猫だってチョコ○ーをドカ食いしてるだろ?』

 力弁するミューズを軽く受け流し、ハルはTVニュースに目を移す。

「〈刑務所内で集団不審死 遺体には蜘蛛のマーク〉ねぇ……。全員絞殺体で見つかってるらしいよ……」

『どこの世界にもキラは居るんだな……。世も末だよまったく!』



 

「付きまとうのはやめてくれ! なんなんだ一体!」

「違法献金を立件した検事に金を握らせ、証拠不十分で不起訴……。なるほど、お前は確かに“悪者”だなぁ……!!」

 高架下のトンネルで威張り散らす小太りの男に、もう一人の男が覆いかぶさる。細く透明な糸を首に巻きつけはじめたのである。

「何をする! 私はアルカトピア議会元議長だぞ……ッ……!?」

 小太りの男の声は、高架を通る電車の音にかき消される。スーツの男は、息絶えた元議長の首に巻かれたピアノ線のような糸を噛み切り、喉元に血で蜘蛛の烙印を押す。

 白目を剥いて絶命している男を一瞥しながら、蜘蛛のディークは呟いた。

『これで二十人目、か。世間では〈蜘蛛の英雄〉なんて呼ばれてるぞ……?』

「ハ、ハハハハッ……! やっと、やっと私も評価される……尊敬される……英雄になれる……ッ!!」

『なぁ、これで満足だろう? 貴様の願いは叶ったな。よし、契約は終了だ。報酬を頂こう。お前の精神をなッ!』



 午後九時。ハルたちの仕事が始まる。

『ハル! ディークの気配!!』

「わかったわかった……」


 向かったビル群の路地裏、そこにあるものに少女は言葉を失う。

 蜘蛛の巣。それも四メートルを優に越えようかという巨大なものだ。巣の中心には二メートル程のピンク色の蜘蛛が、獲物を求めてガシャガシャと鋏角を動かしている。


『ディークノア:タイプスパイダーッ! うわっ……地獄からの使者じゃんッ……!』

「何こいつ……何こいつ……!?」

『カラーリング気持ち悪すぎだろ!! 翼が欲しいとか言い出しそう……』


 蜘蛛はハルの姿を感知し、こちらに向けて糸を飛ばす。そして、粘ついた糸をフックショットのように操り、ハルに突進する。


『おい! こんな動きする蜘蛛、この前モンハンで狩ったぞ!』


メギャン


 ハルは緋銃グリムを召喚し、指先を少し噛む。そこから流れ出す鮮血の紅を二つの指で丸め、装填する。


  突進してくる怪物に向けて射出される弾丸バレットは、その柔らかい腹に届かず糸で巻き取られる。

『オーマイガッ! 惜しい……!』


ドガガガガ!!


 蜘蛛は雨のように連射され続ける弾丸を強靭な糸で防ぎ、魚卵のような複眼でハルたちを睨みつける。


緋銃グリムじゃ効かないッ……!?」

『どうするッ!? 詰みかけてるぞ……?』


 トドメとばかりに吐く糸は、ハルの足を絡めとろうとする。


シュンッ


 一つの閃光と共に切り刻まれた糸をハルは視認する。その場に現れたライムグリーンの髪の少年は、流れるような一太刀で蜘蛛を叩き斬る。


「君たち、狩りの邪魔だよ……」


 柔らかい腹に斬撃を浴びせられた蜘蛛は、突如現れた乱入者に剥き出しの警戒心を抱く。


「まだ流石にやられないかぁ……」

 カーキのナポレオンコートを着た少年はそう言い、小さく息を吐いた。


「もう一度行くぞ……奏剣ポナパルトッ!」


シュゥン!


 少年の背丈の倍はあろうかというロングソードが、鳴動するように輝く。曇りのない白銀に、彼の華奢な腕が映える。


ザッ!


 一歩踏み込み、脚を斬る。


ズバッ


 複眼を斬る。


ザシュッ!


 腹を斬り刻むッ!


 蜘蛛は斬られた複眼を刮目させる。その下腹部が袈裟斬りされ、真っ二つになっていることに気づく。


『グォォォォ!!!!』


 大きな苦悶の叫びを上げた怪物は、瘴気を噴出しながら徐々に人間の姿へ還っていく。そこにいるのは血を流し倒れている生身の人間だ。


「倒したんだよね……?」

『あぁ、気配は消えた。それよりそこのお前!無視すんなお前だって……。〈素質持ち〉のディークノアさん!』


 狩りの時間を終え何処かに去ろうとする少年は、ミューズに呼ばれ振り向いた。まだあどけない顔立ちに、冷めたような眼を持った少年だった。


「どうしたの……? うるさいコウモリさん……」

『うるさくない!! シャバドゥビタッチヘンシーン! とか言わない!』

「まぁまぁミューズ……。助けてくれてありがとう、助かったよ! それで……アンタは一体何者?」

『そうだよ! なんでライムグリーンの髪? 書き分けの下手な漫画家かよ!』

「そこ!? ……アンタもディークノアでいいんだよね? 名前は?」

 少年はハルの方を向き、値踏みするような視線を向ける。

「助けるつもりじゃなかったよ……。ただ、僕の狩りの邪魔されそうになったから……。あと、名前は名乗りたくない。僕は〈サイレント・ノーブル〉だから……」

『ラン様、そろそろ帰りましょう! 夜風がお身体に障ります!』

「ソルグ、ガキ扱いしないで……!」

 ラン様と呼ばれた少年は欠伸を一つすると、従者を置いて帰ろうとする。

「待って! 君は味方なの?」

『女ァ! ラン様に話しかけるな貴様ァァ!!』

「あっ、ハイ、ゴメンナサイ……」

「ソルグ、うるさい……。ほんとに置いてくよ?」

『お待ちください、ラン様~!』


 パートナーのディークを無視して歩く少年に向かって、ミューズは深々と溜息を吐き、呟く。

『なに?あのク○ウドみたいなショタとモンペディーク……』



『そうか……。動き始めたか……』

 鎧を着たライオンが電話越しに答える。

『今度こそ、お嬢を殺せるようなディークノアならいいが……』

地縛猫:言わずもがな社会現象になったあの猫。ゲラゲラポー。

キラ:漫画〈DEATH NOTE〉の登場人物。未開封のポテチに細工をする。

ピンク色の蜘蛛:hideさんの名曲〈ピンクスパイダー〉から。ほんとに怒られそう。

地獄からの使者:東○版スパイダーマッ!から。許せる!

蜘蛛の動き:ネルスキュラ。うざい。

シャバドゥビタッチヘンシーン!!:〈仮面ライダーウィザード〉のうるさい変身音。おもちゃでもかなりうるさい。

ク○ウド:チョコボ頭。

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