初仕事と泥棒カラスと孤独な狩人
今回は書いてて楽しかったよ!神回の自信あるよ!
戦闘描写どうですかね……。
『ハル! 初仕事だ!』
「眠いんだけど……!!」
『慣れろッ!』
午前五時。どこかのコーヒーショップでは甘いグァバジュースが出る時間。まだ日は昇らないので、ディークノアはどこかで暴れ続けている。いつもの2割増でテンションの高いミューズを尻目に、ハルは目を擦りどうにもローテンションな様子。
『走れ走れ! ディークノアは待ってくれないぞー!』
「アンタは学園ドラマに影響された新米教師か……!」
『おーっと、ハルちゃんからほどよい殺意が満ち溢れてるぞー!』
「もう早く終わらせて早く寝たい……」
アルカトピア屈指の売場面積を誇る百貨店。その宝石売り場に鎮座するは、異形の怪物。ハルより少し小さな体躯は漆黒の羽毛に覆われ、顔にはべったりと白いペストマスクを装着している。そして、手足には鋭利な刃物のような鉤爪がギラギラと輝いている。
ハルたちは無残に割られたショーウィンドウと、鉤爪に掛けられキラキラと光を反射させるネックレスから状況を理解する。
『ディークノア:タイプクロウか……。宝石泥棒とは世も末だねぇ……!』
「仕留めますか……!!」
クロウ・ディークノアは、自らの翼を硬化させ、勢いをつけて飛ばす。
シュゥン!!
漆黒の刃がハルの頬を掠める。彼女は流れた血を指で拭い、弾丸に変える。
カチッ
緋銃を召喚し、弾丸を装填する。
引き金を引くと、ハルの華奢な肩にずっしりとした衝撃が伝わった。
「これが、銃を撃つ感覚……!」
先刻までの眠そうな瞼など過去に置き去りにしてきたように、少女はまるで獲物を初めて追う猟犬の様に瞳を爛々《らんらん》と輝かせる。
弾丸は吸い寄せられるようにカラスの脳天に、とはいかず、機敏な動きで躱される。怪物の頭蓋を掠め行き先を失った弾丸は、壁にぶつかり血飛沫に還る。
「速い……ッ!」
『うん、速さが足りてるな……』
カラスはまるで嘲り、煽るように『CWAAAAA……!!』と啼く。
「挑発!? ムカつく……ッ!」
『ばっ、馬鹿ッ! そんなに撃ったら……』
ハルはミューズの忠告を意に返さず、散弾の雨を浴びせ続ける。辺りに迸る鮮血は、売り場の壁を斑な真紅に染める。
カランッ
シリンダーが空になるまで撃ち尽くした結果、カラスには一発も命中することなく攻撃の手をやめることになった。ハルの額に汗が滲む。それを見たカラスは勝ち誇ったような鳴き声を上げ、今度は外さない、とでも言いたげな表情で再び翼を飛ばす体勢に移る。
シュゥン!!
再び何かが空を切る音。しかし、飛んでいるのは漆黒の刃、ではなく赤い鎖だ。刹那の出来事にカラスは戸惑いを隠しきれない様子である。余裕の笑みを浮かべたハルは、赤い鎖が垂直に伸びた壁に身を委ねる。
『外して血痕になった弾丸を鎖に変えたか……ッ! 初めてにしては応用編までできたって感じだな!』
カラスは絡まった鎖を解こうと藻掻き続ける。しかし、その動作が徐々に単調なものになり、やがて気力を失ったかのように動かなくなる。
太陽は既に眠らない街の空に昇りはじめている。ハルはミューズに言われるまま縛られた怪物に手を伸ばすと、怪物の顔を覆う仮面を剥がす。
カラスの身体を構成する仮面の奥には、霧に塗れた男の顔があった。
『よし! この霧は俺に任せろ!』
ミューズは翼を男の顔の上で重ねると、怪物の身体は生身の人間のものへと変わっていく。
「あのさ、これ大丈夫だよね? 死んでないよね?」
『気絶してるだけだ、大丈夫! あとは、血まみれの売り場と宝石泥棒を従業員が見つけるだけだな!』
緑髪の少年と従者のバクは売り場の外で、先ほどの戦いの様子を話し合いはじめる。
『コウモリのディークノア、しかも〈素質持ち〉……。ラン様どうなさいます?』
「僕以外にも同じような能力を持ったやつが……。あとソルグ、その呼び方そろそろやめてよ……!」
『ラン様はラン様ですから!』
「昔の姓は捨てたんだ……!今はフィリップ、いや《サイレント・ノーブル》……。ただの孤独な狩人だ」
甘いグァバジュース:ポルノグラフィティの楽曲『グァバジュース』から。実際は酸っぱいらしい。
速さが足りてる:世界三大兄貴こと『スクライド』のストレイト・クーガー兄貴の名言
「お前に足りないものは、それは!
情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!
速さが足りない!!」から。