反撃と憑依と錆びたショットガン
下手くそなアクションシーン
※一年後の狐です。加筆及び修正しときます
前方以外が壁で覆われた袋小路。少し冷たい夜風が頬を撫でる。
前からは魔物が襲ってきている状況だ。 絶対絶命、そんな言葉がハルの脳裏に過ぎる。
「反撃!? どうやってあんな化け物と!?」
『あー……とりあえず身体の力抜け。身を委ねてくれ。今回は俺がやるッ!』
ハルの頭にそんな声が響いた。強い言葉の割には威圧感はなく、なぜか安心できる。
「なんでもいいから、早くなんとかしてよッ!」
『じゃあちょっとばかり身体借りるわ。すぐ返すから!』
刹那、ハルは突如として動く身体に戸惑った。自分の意思とは関係なしに、俊敏な動きで魔物に接近する。まるで一流のスポーツ選手の身体能力が備わったような感覚である。
『憑依されても自我は保ってんな、〈素質持ち〉! ホントに最高だよ!』
彼女はいつの間にか自分の姿が変わっていることに気がついた。
さっきまで制服を着ていた筈なのに、漆黒のワンピースをまとっている。頭にはワンピースと同じ色のミニハットを装着している。満遍なく配置されたコウモリのモチーフがなんとも言えない。そもそも、こんなゴスロリ調の服は彼女の趣味とは一ミリも合致していないのだ。
虎頭の化け物は、ナイフを振り回しながらブツブツと呻いている。漏れる声は只管血を求めているので、ハルの頭には自らの身体が赤く染まるイメージがつきまとっている。
『そんなに血が欲しいんですかねぇ……。ならくれてやりますか!』
頭の中の声はそう言うと、ハルの身体に新たな命令を送り込む。ハルは、ほぼ強制的に地面の血痕を触ってしまう。
人差し指に付いた血が鉛色に変わる。
『仕留める……。緋銃!!』
謎の声はそう言うと、彼女の脳内に強いイメージを送る。ぼやけた武器の虚像がぐるぐると前頭葉に広がり、視界に重なるように虚空から緋色の錆びたショットガンが現れる。
『あれっ!? こんなのだったっけ……?』
謎の声はハルの抱いたイメージと少し違うような幼い声を上げ、散弾銃を構えさせる。そして、やや操作に手間取りつつ、先程まで血液だった弾丸を装填し、銃口を魔物に向ける。
『解放してやるよッ!』
美しい軌道を描いた弾丸が、魔物の脳天を貫いた。
『まったく、楽な仕事だ…!』
謎の声がそう言うと、ハルの身体は楽になった。目の前に倒れている男の頭は虎ではなくなり、ユウは数メートル先で呆然としている。謎の声の正体はすぐ近くでドヤ顔をしているし、肝心のハルは珍妙な格好で銃を握っている。
「ハハッ、ハハハハ……」
ハルは目の前の異常な光景を理解できずに、乾いた笑いを洩らした。
「ごめん、もう一回説明して!」
『これで六回目なんだが……』
蛍光灯が輝く部屋。ぬいぐるみなどのファンシーな物が置かれているベッドは、その部屋の持ち主が女子高生である事を暗に物語っている。そのベッドの上で、帰宅した女子高生とぬいぐるみのようなコウモリが不穏な会話をしている。
あの化け物を倒した後でハルは友達を家に帰し、そのまま帰宅した。宙に浮くコウモリのような動物と共に。
ミューズという名前のその生物は、何回も同じ説明をすることに半ばキレながら言った。
『要するに、俺らはディークっていう生物! 人間の願いを叶える代わりに憑依して操るんだよ! 素質が無い奴はあんな化物になんの!!』
「一気にキャラ変わったねアンタ」
呆れる少女に、緋色の瞳のコウモリは高らかに宣言する。
『なんかさぁー……さっきの願いを解決するだけじゃ、お前の身体は乗っ取れないみたいなんだよ。身体借りたからかな? だからさ、もう一回願い教えて!』
「えっ? ええっと……『ああいう化物からみんなを守る』……?」
『OK! その願い叶えるまで一緒にいてやる!』
「はぁ……?」
『いいだろ。ペット感覚だよ。それにまたディーク出たらどうすんの?』
そうまくし立てられると、ハルは断ることができない。
『これからよろしく!』
ここからコメディ8:シリアス2ぐらいになりそう