嫉妬彼女
「……はぁ」
またか、なんて言葉はもう出てこない。
目の前のキャンバスを見て溜息を吐き出す。
別にいいけど、毎回毎回よくもまぁ飽きもせずにというのが私の感想なのだが。
ズタズタに切り刻まれたキャンバスは美しいとは言えない。
絵が可哀想。
描いた私が可哀想なのではなく、絵が可哀想なのだ。
これも処分しなくちゃな。
両手で抱えられるかギリギリの大きさのキャンバスを持ち上げて、イーゼルから下ろす。
新しいキャンバスあったかな、なんて考えながら。
コンクールまで後二週間の今日に私はまた絵を切り刻まれた。
そんなことは日常茶飯事なので気にしてはいない。
ただ描いたものが残らないのが何とも言えないだけだ。
「あっれー?中原さん、また切られたのー?」
語尾に(笑)とでも付きそうな感じで話しかけてきた同じ美術部員。
入口に立たないで欲しい、通れないから。
その友人だろう女の子もニヤニヤと笑いながら私を見た。
私は大して気にせずに通り過ぎようとすると、キャンバスが思い切り音を立てて蹴られる。
ちょっと、意外と重いんだからな。
内心イラッとしながらも表情を崩さずに相手を見つめる。
「後二週間しかないのに、出せないんじゃないー?」
「てか、それ出せば?」
甲高い声でキャハハッと笑いながら切り刻まれたキャンバスを指さす彼女達。
私はキャンバスを持ち直して彼女達を真っ直ぐに見つめて笑う。
「まだ、二週間もありますから」
そう言ってキャンバスを運び出す。
ひくっ、と彼女達の表情筋が引き攣ったのを見て私は大満足だ。
何の問題もない。
焼却炉まで運んで壁に立て掛けて置き一息つく。
結い上げていた髪が崩れて首元に掛かっていたが、私は気にせずに空を見上げた。
さて、と、後何回切り刻まれるのかな。
体を伸ばしてから私はスカートを翻し美術室へと戻る。
それから二週間の間、私の絵は幾度となく切り刻まれた。
美術部員の奴等はそれを見て笑う。
私も言葉攻めを交わして笑う。
コンクール当日も私は来れないよね、なんて話している美術部員を見て笑った。
私の体よりも大きなキャンバスを必死で運んできたのを見て、目を丸くするのが滑稽でたまらない。
「先生、まだ間に合いますよね?」
私が笑って問いかければ先生はハッとしたように駆け寄って来る。
それから間に合ったのね、とか良かったわ、とか言うけれど私は先生の言葉を半ば無視して、壁に絵をかけた。
私の登場で静まっていた美術部員が絵を見てザワザワと囁き合う。
美術部員の皆は私の絵が切り刻まれたとしても、知らん顔。
むしろ面白がる。
別にいいんだよ、私は描ければいいから。
崩れた結髪を手櫛で整えながら自分の作品を見た。
可哀想と言った子でも内心私の絵が切り刻まれたらホッとすることも知ってる。
今の皆の何とも言えない顔が全てを物語っているじゃない。
汗を一筋流したり、顔を青くしたり、眉を寄せたり、目から光を失わせたり……。
私への嫌がらせは虐めではないんだ。
くるりと体を反転させて、結果が出るまで外に出る。
勿論、結果は大賞。
題名と名前が書いてあるところには大賞と貼られている。
家でコツコツ描いてきたんだよ、邪魔されても描いてきたんだよ。
大きく一つのものを捉えて圧巻的に、でも美しさのために繊細さを忘れずに、人の目を奪い引き込むことを目的に描くの。
結果なんて一つの評価でしかない。
誰かが私の作品を見てくれるだけで、嬉しいの。
それが例え、嫉妬だとしても。
悔しいから馬鹿にする、結果を出せないように足を引っ張る。
だって、認めたら負けちゃうもんね。
ただの嫉妬。
結果を見つめる先生と美術部員達に笑顔を向けた。
これからも精進しましょうね、皆さん。