僕の雨
冷たい雨が降っていた。
しとしとと弱く降り続ける雨は、今朝から止むことなく降り続けていた。
公園の時計の針がちょうど「レ」の字になったころだった。
隆広は無我夢中で公園を斜めに走り抜けて行った。
目覚まし時計を寝ている間に飼い猫のポチに壊されていたため、予定より1時間遅く起きてしまったのだ。
時計を見て飛び起きた隆広は、お気に入りの赤縁メガネをかけ、ゆるゆるの腕時計を身につけて、食パンを咥えながら勢いよく家をでた。
しかし、外はあいにくの雨。
自転車で出発しようとしていた隆広はしかたなく走って出発することにした。
そしていまに至るのだ。
いつもの駅への道を走っていると前からタクシーがやってきた。
何事もなくすれ違おうとしたその時、後部座席に女性が乗っていることに気付いた。
隆広は一瞬で心を奪われた。
色白で細身の体、黒髪のロングが綺麗なひとだった。
気づかぬうちにその女性に目を奪われていると、大きくてごつごつしたまるで岩のようなものにぶつかった。
隆広はそのままふんぞりがえってしまった。
大きな岩のようなものの正体は身長190cmはゆうに越している巨漢だった。
大根のように太く、硬い腕がその男の力強さを物語っていた。
「すいません。」
隆広の口から自然にでた一言だった。
3秒ほど目があった。
やられる、、と思ったその時、大男は無言で立ち去って行った。
隆広は濡れたコンクリートの上に座りながらふと我に帰った。
「やばい。」
とまた走り出した。
尾崎隆広は燐応大学の2年生で、やせ細った身体と赤縁メガネが特徴の普通の大学生だった。
その日、学校は休みで友達と映画を見る約束をしていた。
オーズバーン監督の最新作【うさぎとネズミ】をとても楽しみにしていた。
開演5分前に到着した隆広は友達と合流し、トイレを済ませ映画をみはじめた。
まさかこれから、あんなことが起こるともしらずに。