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第9話 (サイドA)

王女視点です

 マルゲリータ・ナファバルアーとしての生活が始まった。

 ナファバルアーというのが私の貴族名だ。

 もちろん、領地も使用人も土地管理人も、すべては父と母が手配してくれたものであり、自分がお飾りの領主という自覚はある。

 セシーは領地についてきてくれた。彼女の夫は、王妃付きの事務部門で働いていたが、ここの土地管理人となったのだ。

 王宮勤めをやめさせることを心苦しく思い、一度、セシーには王宮に残る方がいいのではないかと言ってみた。彼女の夫のことも、母に頼めばなんとかしてくれるはずだ、と。

 だが、彼女は、もともと私が結婚して王宮を出るときには、ついてくるつもりだったらしい。それに、彼女の夫のことを王妃に頼む姿勢がよろしくない、と叱られた。王女を降りて独り立ちしようというのに母に甘えようなど、と。

 今は彼女達に甘えることにして、いつか立派な領主になろうと思った。


 領主として落ち着いた大人の女性になれたら、あの人は、いつか女性としてみてくれるだろうか。

 この子供っぽい外見では、無理かもしれない。鏡から見返してくる、大きな瞳の少女の顔は、大人の女性には遥に遠いものだった。


 土地管理人と領地を回り、見てまわる。ここは、富んだ土地が少ないため収穫量も低い。王都には近いが、ゴツゴツとした岩場が多く、岩場の向こうには、国が管理する森が広がる。比較的人口が少ない小さな町が一つあるくらいだ。

 だが、小さいといっても、領地内には数百人は住んでいる。その生活を支えていかなければならない。もちろん、土地管理人がおり、地区管理者、小作人や猟師達などの代表がいる。組織がきちんと機能し、領主が無駄に出費を増やしたりしなければ、この領民達の生活は保たれる。きちんと機能させるために必要なことを、日々学んで行く。多くの人々に会い、言葉を交わす。忙しい毎日だった。

 元王女が領主になったことは、領民達にとって重要なことではなかった。20数年前の領主だった貴族が、不正行為で取り潰しになり国直轄となっていた土地なのである。貴族の領主には不信を感じるが、国直轄となってから生活が安定したため王族に対しては好感をもっている。新しい領主に対しては、静観する方針のようだった。

 2ヶ月もすれば、毎日の見回りで、声をかけてもらえるようになった。

「おはようございます、領主様」

「おはよう。今日はいいお天気ね」

 王宮や社交界に比べたら、正直な感情を表に出す人達との会話は気が楽だった。確かに王族の私に対して、気を遣わせているようではあるが、徐々にその距離感は慣れてきつつあった。



 そんなある午後、屋敷に彼が訪ねてきた。

 真夏は王都を離れて、地方で過ごす都会の人が多いのだ。

 彼も、夏の間は避暑のため、自分の土地にやってきているようだった。

「初めまして。ロンバート・ラップラングと申します」

 何度も会っているのに、初めて名乗り合う。

 目の前に立つ背の高い男性。

 指先が震える。

「ナファバルアー家のマルゲリータです」

 声が震えないよう気を付けながら、彼を見返す。

 緊張で耳が遠くなったように感じる。

 彼にソファーへ座るよう促し、お茶を持ってくるよう指示する。

 天気や王都での様子など、当たり障りのない話をしながら、彼の様子を窺う。

 ごく普通の、他の隣接する土地の人が挨拶にきた時と同じようだ。

 過去に会ったことなど一度もないかのような。

 彼が避暑のため1ヶ月ほど滞在することを聞きだした。

 30分の滞在で、彼は引き上げていった。



「マルゲリータ様は、あの方が、お好きなんですね?」

 セシーが私の髪にブラシをあてながら言う。鏡越しにセシーを見る。

 そんなに気が付くほど、私の態度は、あからさまだっただろうか。

「心配なさらなくても、他の人にはわかってません。ただ、ばれるのは時間の問題だと思いますよ」

 とりすましてみたところで、隠すことなどできないのだ、自分には。唇を噛み、項垂れる。

「私も協力しますから、元気出してください」

 協力?

 再び顔をあげ、セシーを見返す。

「これからは少し色気を含んだ装いにしていきましょう。特に、夜は。腕の振るいがいがありますわね」

 彼女は何かを決意したようで、髪をブラッシングしながら、視線はどこか遠くを見ている。ニヤリと笑った口元が、ちょっと怖いと思った。


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