第6話 (サイドB)
男性視点です
フロアで、楽しそうに踊る王女の様子を見ていた。
少し軽薄そうだが若いハンサムな男と一緒にいる姿はお似合いだと、思った。
「ロンバート」
心配そうに声をかけてくる友人。
なんとなく知れるのだろう、自分の態度から。
苦笑を返し、その場を離れる。
バルコニーから庭へ降りる。
舞踏会の喧騒から少し離れ、目の前には月明かりに照らされたモノクロな世界が広がる。
舞踏会場の華やぎは別世界なのだと、屋敷の窓から見える人々の様子を眺めた。
もう参加するのは、やめよう。
そう思っていると、ドアの一つからバルコニーへ1組のカップルが出てくる。
王女だった。
その場から立ち去るべきだと、わかっていた。
だが、体は動かない。
二人からは自分の姿など見えないのだろう。
気付けばいいと、思いながら。その場にたたずむ。
バルコニーの風景もまた、自分とは別世界であるのに。
遠い世界であることが。
しばらくぼんやりと眺めていたが。
どうやら王女は男に抵抗しているようだ。
バルコニーの方へ近づくと、王女が、やや前のめりになる男から身を引いているところだった。
「こっちへ」
小さく声をかけると、王女がすぐにこちらを見、駆け寄ってくる。
膝をついている男もこちらを見たが、追ってくる様子はない。
そのまま、王女を連れて、別のバルコニーから小さな誰もいない部屋に入った。
抵抗した時のせいか、王女の髪が大分乱れている。
このまま舞踏会場へもどれば、一体何をしてきたのかと酷い噂の的となってしまうだろう。
右腕にすがっている王女を、ソファーへ座るように促した。
「その格好では帰れないだろう。あなたの侍女を呼んでこよう」
しかし、王女は腕を離されないようにと、余計にしがみついてきた。
仕方なく彼女と共にソファーへ座る。
ぐずぐずと鼻をすすりながら泣いている彼女の目から零れる涙をハンカチで拭いてやる。
顔をそむけるでもなく、されるがままだ。
鼻水を垂らすのはよろしくないだろうと、ハンカチを手に握らせる。
素直に手にとり、涙と鼻水をぬぐう。
腕が離れたので立ち上がろうとすると、すぐに腕に寄りかかり片手を腕にまわしてくる。
その可愛らしい仕草に、降参する。
しばらくは、王女の望み通り、そばでなぐさめることにしよう。
暗い部屋で、二人きりで抱き合うように座っている姿を誰かに見られでもしたら、大スキャンダルになることは間違いない。
いっそ、そうなってしまえば。
王女はここにいてくれるだろうか。
そんなあり得ないことを思いながら、右肩に寄りかかりぐずっている王女の背中をなでる。
何も言わないのに全身で慰めろと訴えてくる。
眠たくて、でも遊びたくてぐずっている我が儘な子猫達のようだ。
誰にも見つかることなく、王女は帰路についた。
その晩、執事に、今後は王女が来ても邸には入れず帰すよう伝えた。