第4話 (サイドB)
男性視点です
子猫達を綺麗にして、即席の猫用ベッドを準備し、どこにいてもわかりやすいように鈴を首に巻いた。
そうこうしているうちに夜中の2時を回ってしまった。
翌日の朝、1階にある小さな居間に子猫達を閉じ込めることにした。なかなか籠の中に大人しくおさまっていてくれないのだ。
昨日会ったのが王女なら、来ることはないだろうと思いながらも、一応、執事に伝えておく。
子猫達に会いたいと言って訪ねてくる少女がいたら、部屋に通して好きにさせるようにと。
だが、王女はやってきた。
子猫達と部屋で1時間ほど遊んで帰ったそうだ。服を猫の毛まみれにして。
執事は、彼女が王女だったことはわかっているようだったが、知らないふりをしていた。
また彼女が訪れても、今日と同じように対応するよう伝える。
ここは貴族が住む区画ではない。まして、この邸は、独身男の住むごく小さな住処だ。
王女のような身分の、しかも適齢の貴族女性が、立ち寄るところではない。
少女の年齢の子供が立ち寄るところでもないのだが、昼間の自分がいない時間帯でもあるので、知り合いの子供が寄っていると思われる分には問題ないだろう。彼女が飽きるくらいまでならば。
王女が『赤毛のチビ姫』という呼ばれ方をしているのはよく知られた話だ。
見事に赤い髪をしており、どこにいても目立つ。
しかも、背が極端に低い。
成人女性の平均身長より20cmくらい低いのではないだろうか。
12~13歳くらいの子供だと言われても不思議ではない。
手足もほっそりとして華奢だ。とても成人女性からは遠い体型だと思われる。
しかし、今年17歳になり、社交界へデビューしたばかりだ。
結婚市場の独身男性陣からは、ダンスもあまり上手ではなく、気の利いた会話もできない、見目の悪い子供と評されている。透けるような淡い金髪に淡い色の瞳であることが美しい女性とされているので、彼女のような濃い色の髪や瞳を見目悪いと思うものが多いのだろう。
そう評している男達が、舞踏会で彼女を取り巻き、機嫌を伺っている。
彼女が王女であるからだ。
自分とは違った意味で、王女にとっても社交界は居心地の悪いところなのかもしれない。
王女が邸にやってきやすいように、昼間は外出することにした。
夜は、友人に頼んで、できるだけ王女が出席しそうな舞踏会へ出席した。
積極的な姿勢を見せるためだけに、女性に声をかけてダンスに誘う。
すると、以前とは違って、ダンスに応じてくれる女性もいた。
気がないときの方が、応じてもらえるとは、皮肉なことだ。
「どうしたんだ、最近。この間まで、少しも乗り気じゃなかったっていうのに」
女性から離れて一息ついていると、友人に声をかけられる。
最近は出席しても女性に声をかけず、舞踏会への招待を断ろうとばかりしていたのが、急に招待状をよこせと言われ訝しく思ったのだろう。
だからといって本当の理由を言いはしないが。
「心を入れ替えたんだ。数をこなせばなんとかなるかもしれないからな」
舞踏会場をざっと見渡す。
王女は見当たらない。
こんなところに来ているのは、彼女に会いたいからだった。
昼間、邸にいれば会えるのはわかっているが。
子猫に会いたいであろう彼女の時間を取り上げたくはなかった。
会えば、思慮ある大人の男性として、もう二度と来ないようにと言わなければならないのだから。
ここに王女がいても、遠くから見るだけで、近くに寄ることはできないだろうが。
「王女はいないんだな」
そう呟きがこぼれる。
「そういえばここ数日見ないな。いつもルドルバーグの息子と一緒にいるのに」
友人の言葉に眉をしかめそうになる。が、表情に出さないように気を付ける。
言葉に力が入らないように、興味のない単なる噂を話のネタにしている風を装う。
「ルドルバーグの息子?」
友人は舞踏会場の中ほどにいる数人の男女の集団をみやる。
「あそこの、ちょっと背が低い男だよ。王女のお気に入りらしい。背が低い王女にはちょうどいいんじゃないか」
友人の軽口に、なぜか腹が立つ。
そして、ルドルバーグの息子とやらの集団にも。
「騒がしい連中だ」
「そうだな。王女との婚約間近って噂だ。浮かれもするだろう。王女の持参金額の賭けがはじまっているらしいぞ」