第3話 (サイドA)
王女視点です
翌朝、目元が腫れぼったく我ながら不細工になっていた。
今日は何も考えたくない。
そう思って部屋に閉じこもっていたが。
一人でいれば、当然、グルグルと考えてしまう。
よくよく考えていれば、リデリックのことを本当に好きだったのかすら、よくわからなくなってきた。
私が見ていた彼は表面だけで、何もわかっていなかったのだから。
本当の彼は、一体どんな人なんだろう。
次に会ったとき、私は、彼のことをまだ好きだと思うのだろうか。
考えてばかりでは、暗くなる一方だ。
気分転換に、昨日会った子猫達に会いに行くことにする。
「とんでもありませんわ、王女様。3番街といえば、商人ばかりが住んでいるところですよ。そんなところに王女様がいらっしゃるなんて」
セシーは大反対した。
「こっそり行けばいいじゃない。鬘かぶって変装していけば」
鬘かぶっても顔を見れば、眉も睫毛も瞳もそうなんだから、王女だってすぐバレるのはわかってるけれど。
子猫達に会って癒されたいと思った。
どうしても行きたいとごねていると、明日の午後なら、と協力してくれることになった。
「ラップラング家の3男で、ロンバート・ラップラング、31歳。堅実な投資家です。過去に一度、婚約が破談になっています」
ラップラング邸に向かう馬車の中で、セシーが彼のことについて調べたことを報告してくれる。
「婚約が破談に?」
「婚約者はラップラングの領地内に住む地主の美しい娘だったそうです。が、ラップラングの長男といるところを発見され、一大スキャンダルとなり、婚約は破談。彼女とその家族は別の地へ移り、ラップラング氏は王都の邸で仕事をして一人暮らしをしているということです」
昨日の今日だというのに、よくすぐにこんなに細かい内容が調べられるものだと感心する。
「彼女と彼のお兄さんは結婚しなかったの?」
「もちろんです。彼の兄はすでに結婚してましたから」
兄に婚約者を寝取られて故郷を出てきた人なのか。
かわいそうな人なんだ。子猫達を引き取りたいと思うのも、寂しいからなのかもしれない。
ラップラング邸に到着すると、彼は居なかった。
「旦那様は仕事で外出しておりますが、子猫に会いにいらっしゃるお嬢様のことは伺っております。こちらへ。ご案内いたします」
出迎えてくれた執事は、穏やかな表情で、邸の中へ案内してくれる。
私が王女だと、一目見て分かっただろうに。
セシーと共に邸の中でも1階のやや奥にある小部屋に通された。
そこに子猫達がいた。
ソファーの上にいたり、テーブルの脚で爪を立てていたり。
どうやら、この部屋に子猫達を住まわせているようだ。
よく見れば、子猫達の首には、赤と青と緑の布がそれぞれまかれており、そこには鈴がついて、子猫が動くたびにリンリン音がする。
子猫達は薄茶でうっすらとした縞模様のあるふさふさとした毛でおおわれている。
泥もついておらず、お風呂に入れてもらったのだろう。
部屋に入ってきた侵入者に警戒しているのか、3匹がこちらの様子を窺っているようだ。
ゆっくりと近くにしゃがみ込み、子猫達のために持ってきていた猫おやつを手で差し出してみる。
一匹がそれにかぶりつくと、他の2匹もやってきた。
子猫達はすぐに慣れてくれた。私の膝に乗ったり、手にじゃれついたり。
時間を忘れて、子猫達と遊んでいた。
沈んでいた気分はどこへやら。すっかり癒されていた。
「そろそろ、お暇した方がよろしいんじゃありませんか?もう一時間もおじゃましていますよ」
飽きれた顔でセシーが声をかけてくる。
彼女は、あまり猫が好きではないようだった。