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祖父の死

おじいちゃんが死んだのは、私が大学生の時だった。

当時私はサークル活動と就職活動で忙しく、家に帰るのが遅かった。

だから、当然のようにおばあちゃんの家に遊びに行くのも全然なくて、

最後のサークル活動の日、お別れ会と称して皆でお酒を飲んでいる途中、母からおじいちゃんの訃報の知らせを電話で聞いて、慌てて帰ってきた。


突然のことで、悲しいと言うよりびっくりした。


おじいちゃんはお風呂で倒れていた。心筋梗塞だった。




「ハズバンドが吠えて知らせてくれたのに……」

おばあちゃんの家で行われたお葬式で、おばあちゃんはハンカチを目に当てて言った。

その横でハズバンドが寝そべっている。

もしかしたらハズバンドはおじいちゃんの死が分からないのかもしれない。

その場の重苦しい空気だけは分かって、悲しそうなおばあちゃんの横から離れない。

私だって全然実感が湧かなかった。

棺の中のおじいちゃんの白い顔を見て、恐ろしいような気持ちになった。


だって、悲しい気持ちになるほど、私はおじいちゃんの思い出が多くなかった。

いつもいつも家にいず、どこかに遊びに行っていて、正月に会うときだって会話が見つからず気まずかった。



おじいちゃんを思い出すとき、決まってハズバンドがおじいちゃんの側にいた。

そう言えば、一回だけ、駅でハズバンドとおじいちゃんが散歩しているのを見かけたことがある。


私の所属するサークル「うまいもん」は名の通り、美味しい食事のお店を探すサークルだ。

一週間に一回、夕食を食べに行く。基本居酒屋の飲みサークルだ。

私は大学に入ったばっかりで、だからいつも飲み過ぎて帰ってきた。

そんな私にお母さんは怒ったが、「だって楽しいんだもん」と私はサークルをやめたりしなかった。

親子の中があまり良くないときだった。


そんなある日、サークルで夕ご飯を食べた帰り、終電より一本前の電車で家の最寄駅に降り立った私は、ちょうど通りかかった、おじいちゃんとハズバンドに出会った。

「こんばんわー、ハズバンド、今日もかわいいね」

私は酔っていたのでよく分からない挨拶を二人にした。

おじいちゃんは驚いたように

「久しぶりだなー。合コンの帰りか?」

と聞いてきた。ハズバンドがしゃがんだ私の口をフンフンを嗅いでいる。

「違うよー」

と私は返事をした。

それから三人で家に帰った。

夜に散歩に行くとは聞いていたので、偶然だなーと思っていた。




「お父さん、春子の帰りを心配してよく駅まで迎えに行っていたのよ」

お母さんが泣きながら教えてくれた。

そんなの今言わないでよ。

私は「そうだったんだ」としか言えなかった。

どうして今頃になって言うんだろう。

もう私はおじいちゃんと話せないのに。

生きている時に教えて欲しかった。

「全然知らなかったよな」

弟の隆がポツリと言った。

「俺おじいちゃんとの思い出、酒ブタしかないよ」

私も覚えている。


私が小学生の頃、お正月におばあちゃんの家に集まったとき、酔っ払ったおじいちゃんが弟が大事にしていた酒ブタを口の中に入れ、

「ほら消えた! マジック!!」

と消失マジックもどきをやったのだ。

結局弟は大泣き。私は急いでおじいちゃんの口から酒ブタを出させ、洗いに行ったが、おじいちゃんが平謝りしても弟の機嫌は直ることがなかった。


「おじいちゃんって毎日遊び呆けているイメージしかなかった」

「私も」

粛々と葬式は進み、お坊さんが帰ったあと、お母さんが教えてくれた。

「お父さんはちゃんと毎日、家に帰っていたし、お母さんを大事に思っていたのよ」


おじいちゃんが毎日遊びに出る理由を知ったとき、私は悲しくなった。

おじいちゃんが死ぬ前に知りたかったから。

そうしたらもっとおじいちゃんと話すことが出来たかもしれないし、おじいちゃんのこと勘違いせずに済んだんじゃないかって。



もう遅いけど。



大人って、子供に隠すっていうか、知らせなくても良いことだって一線を引いている所がある。


ほら小さい頃のサンタさんの真実やローンの話とか、自分達の恥ずかしい失敗談や青春とか。

知らされていない私達は真実を間違って覚えたり、綺麗に思い描いたりしてしまう。



そして遅すぎた真実に傷つく。もっと早く知りたかったって。




さすがに火葬場まではハズバンドは連れて行けなかった。

おじいちゃんの棺が外に運ばれているとき、ハズバンドが悲しそうに吠えた。

私は初めてハズバンドが遠吠えするのを聞いた。


その声は本当に悲しそうで、私はそこで初めて涙を流した。

読んでくださってありがとうございます。

もう少し、続きます。


感想、問題点のご指摘、宜しければください。

最近文章が上手く書けなくて困っています……

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