第一章 テオフラスツス学園(6)
食堂に来るまでにどれだけ声をかけられただろうか。
女に。
もちろん、スヴァルトが。
それは大体これから食事でもどうとか、来週の休み町にでかけましょうだとかそういう類の話。蓮都にも話を振られなかったわけではないが、主に『転入生?』とか聞かれるだけだった。
だがどの誘いもスヴァルトは断り、食堂まで来たのだった。彼はあまり女生徒を見る目つきに関心はなさそうに見えた。もしかして――
「スヴァルト」
「うん?」
「おまえ、ほの人か?」
んなわけねえだろ、とあっさり否定されてしまった。
蓮都の問いを気にするでもなく、学生で賑わう食堂の端の空いた席に座る。蓮都に座れと促し、対面に座った。
「ふぅ、オレはパスタにすっけど何にすんの?」
「何があるのか知らないって」
「そうだったな。えーと、オススメは日替わり定食だな」
「んじゃそれで」
「場所取りは任せたぞ」
そう告げるとスヴァルトは学生でてきた長い列に並ぶ。時間はかかりそうだ。
そして、ふと気づいたことがあった。
食事中でもあるに関わらず、ほとんどの女生徒の視線がスヴァルトに集まっているのだ。だからか男生徒は憎らしい目つきでスヴァルトを睨み付けている。
「……どんだけ目立つんだよあいつ……」
ぼそりと呟くとペンダントの玲美が反応する。
「スヴァルトくんもてもてだねー。羨ましいんでしょ蓮都」
絶対にやにやしてるなこいつ。
「んなわけねぇだろ」
「何? もしかして蓮都がほの人?」
「違うからな? 女の方が好きだからな?」
「なーに独り言呟いているんだ君は」
ハスキーな声が上から降りかかってきた。驚いて、うぇ!? とわけのわからない声を出してしまう。視線をその人に向ける。
「あ、昼間の人」
金髪のポニーテール。総合戦闘科の彼女だった。
「やあ幽霊少年。また幽霊と交信でもしてたのか?」
ふふ、と笑う。お盆を両手に持った彼女は「一緒にいいか?」と言ってきた。何故か隣に座る。
「は、はあ」
と蓮都は頷いた。
彼女はよくわからない肉の料理とパンにサラダ、スープを載せたお盆をテーブルに載せる。結構な量でとても彼女一人では全部食べ切れそうではなかった。
「もしかして全部食べるんすか……?」
「愚問だな」
いただきます、と加えて食べ始める。上品な食べ方だったが、その量は確実に、着実に減っていく。
「……お? クレアじゃねーか。久しぶりだな。怪我とかねーか?」
「むお? すふぁふとぉか、ひふぁひふり。けがふぁないよ」
口に物を詰めながら話すクレアと呼ばれた彼女を見てスヴァルトはやれやれと呆れた表情だった。とりあえず口の物を片せよ……、とスヴァルトは漏らした。