第一章 テオフラスツス学園(3)
「私はルフェールっていいます。寮母をやっています。ちなみにみんなにはルーちゃんって呼ばれてるから、蓮都くんもそう呼んで下さいねー」
にっこりと微笑みながらエルフの女性――ルフェールは言う。自分も名前を知られているからと自己紹介を怠るわけにはいくまい。
「俺は蓮都・鋼宮。……えと、とくに愛称はないので蓮都のままでいいです」
言ってから、玲美のことも言おうかと思ったが止めておく。気味悪がられるだけだ。そもそも石に魂(らしきもの)が乗り移っているとかどこのオカルトだよと突っ込みたくなる。というか錬金術そのものが自分的にはオカルトなのだが。
「あのー、どうかしましたか?」
黙り込んだ蓮都を見てルフェールは問いかける。いやなんでもないです、と答えるとルフェールは何かに気づいたように翡翠の瞳で覗き込んできた。自然と彼女のたわわな胸に目がいく。頬が熱い。
その状態がたっぷり六十秒間続いた。
「ひょっとして首にかけたペンダントって《精霊石》ですか?」
不意に聞かれたその言葉は蓮都の求めていたものだった。
蓮都は探るように聞く。
「こいつの正体を知っているんですか?」
もしかすれば――いや、もしかしなくとも、何か情報が得られるかもしれない。いまはとにかくできるだけこの石の情報が欲しいのだ。このペンダントのことを知れば、玲美を助けられるかもしれない。“人間に戻せるかもしれない”のだ。
それは蓮都がこの学園にきた理由でもあった。
「知ってますよー。元素はわからないですけど、おそらく精霊が宿っているのではないかと」
――精霊……? 玲美が精霊?
てっきり幽霊の類かと思っていたのに。玲美が「精霊石って言う石。わたしが休むとこ」と言っていたのは冗談じゃなかったのか。
初めから間違っていたのだ。
「精霊はルフェールさんに見えるんですか?」
「はい。精霊に属するものなら見えますよー。エルフですからねー。でも本来なら人には精霊レベルの元素妖精は見えないんですが……。きっと、知らぬ間に契約したからでしょうねー。あ、ちなみにルーちゃんでいいですよ?」
「……契約……?」
そんなものした覚えがない。しかし幸運だ。その話が本当なら玲美に“あの時のこと”を謝れないまま一生を過ごしていたかもしれないのだ。その点についてはよかったと言いたい。蓮都はペンダントを優しく握り締める。ほんのり熱を感じた。
「たぶん先生が教えてくれると思いますよー。私はあまりそっちには詳しくないので」
「錬金術か……。ありがとうございます、ルフェールさん」
「いえいえ。それと私のことはルーちゃんでいいですよ」
にこにこしながらルフェールは思い出したように付け加えた。
「……本題、すっかり忘れてましたねー」
あ、そうだった、と蓮都もつい言ってしまった。