第一章 テオフラスツス学園(2)
彼女の背中を最後まで見送って気が付いた。
制服のラインの色からして二年生だとは思うのだが、彼女は総合戦闘科の生徒だったのだ。
校庭の中央、数十の生徒が集合しており、漆黒の髪をした若い男性教師が取り仕切っていた。運動神経、動体視力、そして戦闘能力。全ての学科でもトップの総合戦闘科。その教師をするとなると、かなりの技量と実力、指導力が必要となるだろう。男性教師は何やら言うと、さっきの金髪の先輩と男生徒が歩み出る。
すると彼女は腰から剣を抜き、中段に構えた。一方、男生徒は長槍だった。教師の口が動くと二人とも距離を取った。どちらも実力はあるのだろう。双方とも相手の出方を窺っている。張り詰めた雰囲気がこっちまで伝わってくる。男生徒には申し訳ないが、彼女を応援することにした蓮都。
睨み合いを破ったのは彼女だった。迎撃する長槍を跳ね除け、一息に相手の懐に潜り込む。しかし、男生徒は読んでいたかのように鋭い蹴りを放つ。彼女は紙一重でかわすがその合間に距離を取られ、激しい突きが繰り出される。それでも一撃も体に触れていない。一向に当たる気配のない突きから薙ぎに移行する男生徒。だがそれを待っていましたかといわんばかりに槍を左腕で受け止める。一瞬痛みか、顔を顰めるが、彼女は相手にできた隙を見逃さない。まさかそんな止め方をされるとは思っていなかったのだろう。男生徒の動きがほんの少しだけ鈍った隙を突く。
次の瞬間には剣先を相手の喉笛に突き立てる彼女がいた。
僅差だった。
――いや、彼女の額には汗の一滴でさえ浮かんでいない。
対して男生徒の額には大量の汗が噴き出していた。差は歴然といっていいだろう。彼女は飄々としているが、男生徒は両肩が上がっていた。
――これが、総合戦闘科の実力……。
蓮都は遠くの名も知らぬ女子生徒に視線を送ってから、寮への道を歩いた。
寮の見た目はあまりにもシンプルかつ、学園に匹敵……はしないがそれ程の巨大さを感じさせる建物だった。
「おっきーねー! 蓮都ー!」
「だな」
素直な感想をぶつけ合う蓮都と玲美。
「でも全寮制だから、こんぐらいの規模は当たり前だろ?」
そう言うと玲美は「あ、そっかぁ」と納得していた。
「おっと、誰か来た。黙っててくれ」
りょーかい、という返事を聞いて、そちらへ目を向ける。
寮の玄関で立ち止まっていた蓮都の前に現れたのは金髪の女性だった。真っ白なエプロンを巻き付けたその体は見事なほどの凸凹具合だった。出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいるという大人びた体つき。顔は細い線で精緻に縁取られている。翠の瞳に尖った耳はエルフ族の証だろう。彼女はおっとりとした雰囲気を纏っていた。
「ようこそ、テオフラスツス学園へ。蓮都・鋼宮くんですねー?」
蓮都は首を縦に振った。