第一章 テオフラスツス学園(1)
読みやすいように一部一部を短くしています。てゆーか行間って空けた方がいいんですかね……。では一章スタートです! ちなみに爆発はしません。
広大な敷地の中、その校舎は堂々と佇んでいた。校庭の向こうにはいくつもの棟が見える。そんな外壁に囲まれたテオフラスツス学園の門前に少年はいた。
「……話に聞いてたけど、本当にでけぇな、おい」
蒼色がかった黒髪の少年は溜息とともに稚拙な感想を漏らした。年の頃は十六、七といったところだろうか。首からはペンダントを下げている。襟の高い衣服を着ており、それは眼前の門を通して視認できる聳え立つような学園――テオフラスツス学園の制服だった。制服のあちこちには、錬金術の祖である五大元素の精霊神をモチーフとした模様が描かれている。
――それにしても、でかい。
圧巻するほどの校舎の大きさと手入れの行き届いたグラウンドの広さ。隣にある寮もまた巨大だった。
自然と頬が緩む。
荷物は片手に持った革袋のみ。必要最低限の物を厳選して持参していた。
ここから帰るときにはこの袋の中には何が詰まっているのだろうか。大切な物が詰まっているのだろうか。それはまだわからないが、少年はこの先に待ち受ける学園生活に心踊らせていた。
「行こうよ、蓮都」
胸のペンダントから声がした。玲美だ。いまは訳あってペンダントになっている。
少年――蓮都は頷き、テオフラスツス学園の門を潜った。
辺りを見回しながら寮棟へ進む。きょろきょろとしていると、背後から彼にハスキーな声がかかった。女の声だとすぐにわかったが、それは剣のような意思の強さを感じさせるものだった。
蓮都は振り向いた。
「テオフラスツス学園へようこそ。転入生か?」
にこりと碧眼で笑いかけてくる少女。自分よりかは一個二個年上だろう。洗練された肉体には一切の無駄がない。真面目な印象を持つ少女だった。長い金髪を後ろで束ね、整ったその顔立ちには育ちの良さと上品さ、貴族の出を窺がわせる。だがどこか違和感があった。
「そうだけど……」
「そうかそうか。しかし、この時期に転入は珍しいな、もう二学期中盤だぞ」
「俺もわからないんですよ、まあ学費は免除してもらえるようなので、つい」
ははは、と笑い声を上げる蓮都と少女。どうやら良い人らしい。
「もー、蓮都だけずるいよー」
唐突に玲美は言った。これには彼女も驚いたらしく、笑いを引っ込めてしまう。ペンダントを強く弾く。痛ッ、とか悲鳴が聞こえていたが無視を決め込んだ。
「なんだ、いまのは?」
周囲を見渡す。当然の反応だ。どこからともなく、しかもいきなり声がしたのだ。誰だって不審な顔をするだろう。彼女は癖なのか腰の剣の柄に手を触れていた。斬られそうで怖い。なるべく不審がられないように笑顔で受け答えた。
「まあ、気にしないで下さい。よくわかんないんで」
「そうはいっても、不気味じゃないか」
「幽霊みたいなもんですよ。全然大丈夫なんで。本当ですよ?」
「そ、そうか……? でも幽霊とは………………」
それっきり会話が途絶える。彼女は不安――というよりも何か考えているようだった。
――ていうか、いまって授業中じゃないのか?
「あの」
「ん?」
思考に耽っていた彼女を呼び戻す。
「授業中じゃないんですか?」
彼女は沈黙した後、あ、と声を上げた。本気で忘れていたらしい。
「じゃあ私は授業に戻るが寮の場所はわかるな?」
「はい」
「それじゃ、またな幽霊少年!」
変なあだ名を付けるだけつけて、彼女は去っていった。