第二章 元素(6)
中庭といってもテオフラスツス学園のものだから規模が違う。庭園と表現したほうが正しい。
そんな中庭上空から何かが降ってきた。その何かは残像だけを残し、セツナに詰め寄る。瞬間的、瞬き一回ぐらいの速さであった。
だがセツナは捉えていた。
お得意のブリザードで盾を作り出し、何かからの、いや、何者かからの蹴りを防いでいた。
「いやはや、流石だね、セツナ。その噂の転入生にもう取り入っているとは」
見ればテオフラスツス学園の制服を着た男だった。長い黒髪を後ろで結び、黒曜石のような瞳を……、待てよ?
「兄さん……っ」
やはりというべきだろうか。蓮都の予想は間違ってはいなかった。
兄妹だったのだ。だがしかし、何故妹であるセツナに兄の男は奇襲をかけた。
「まあ、おまえは賢い妹だから情が湧く前にさっさと手を打つだろうとは思っているけど。今の任務は僕には関係ないから、これだけの忠告にしておくよ。ちなみに任務を続けられる状態でなくなったら代わりに僕が蓮都くんを殺す、いいかい?」
「……いちいちうるさいわね。兄さんは私のやり方に口を出さないでっていつも言ってるでしょ」
「はいはい、ごめんごめん。でも任務失敗したらセツナ、おまえも殺すからね」
にっこりとした笑顔。まったく台詞と噛み合わない表情に蓮都はゾクッとする。
ーーてか、おいおいおい、ちょっと待て。何か俺を殺すとか聞こえなかったか? え、冗談。
「そういうわけだから、アンタ、ちょっと死んでくれる?」
避けようとしたときにはもう遅かった。セツナの鋭利に尖らせた氷礫が蓮都の腹部を貫通していた。