第二章 元素(3)
黒髪の教師アスト・テオフラスツスは驚愕していた。
彼、蓮都・鋼宮が発現させた元素を目にして。
今まででアストが見た元素は火や風に土、雷や水くらいのもので、珍しいとしても無や光と闇が限界だった。
しかし、蓮都の元素はそれのどれにも当てはまらない。確かに前述した以外にも元素はあるに違いないが、世界を旅してきたアストにとってもその元素は未知のものであった。
恐らく、蓮都のその能力を見込んでアストの姉、サーシャ・テオフラスツス理事長は彼をこの学園に誘ったのだろう。
「……面白い。昔を思い出すな」
遠くを見ながら呟くアスト。そんな彼に突然声がかかった。
「あの」
くぐもった女の声だった。その発生源は、
「鋼宮の精霊か」
ペンダントからだった。
「蓮都はどうなったんですか……?」
(把握できていないのか。やはりこいつは成り上がりタイプの精霊か)
「大丈夫だ。安心しろ。貴様の元素量が許容量を超えただけで命に別状はない。ほら、起きろ鋼宮」
床でのびている蓮都の頬をペシペシと叩く。反応は薄いが着実に意識は戻ってきているようだ。
「精霊。非常事態の時にしかこいつに元素を与えるな、わかったな」
「え……、なんで……?」
この元素は危険すぎるからだ。高位の未知なる元素は国側に目をつけられる可能性が高い。この学校にも数人は潜り込んでいる。と推測して間違いはないだろう。特にこの蓮都という少年には別の元素を覚えさせなければならない。このままだと無知なまま外界に子供を放り出すのと何ら変わりはない。
元素について記載された本を山の中から探し出す。基礎中の基礎が書かれた本だ。分厚い上に難解な語句が多く、更に言葉の壁が邪魔してしまうのではないかと思ったが、多少の学なくしてこの学園にはこれないだろうと勝手に推測。
……まあこいつは体で覚えるタイプだろうがな。
アストもそのクチだったためか蓮都のような学生は見過ごせないのであった。
しかし蓮都が全元素中、トップレベルとされるその元素を持つとは思いもしなかった。
「このままでは危険だ」
うっすらと目を開く蓮都を見ながら呟いた。