第二章 元素(2)
テオフラスツス学園西棟、第二校舎。
黒髪の教師が案内した場所は少し怪しげな工房だった。分厚い本が積み上げられた机に床に散乱した錬金術の資料。座り心地のよさそうな高級革を使ったソファもあり、部屋の奥には錬金釜までもが置いてある。
学園内にあるにしてはかなりの大きさを持った一室だった。いったいここで何を始めようというのか、黒髪の教師は蓮都に手招きをする。蓮都は素直に従った。
「精霊石の精霊から元素を借りてみろ」
「どうやるんですか?」
「とにかく願え。才能があるのならできるはずだ。おまえが理事長に認められるほどの才能なら、可能なのだ。元より元素のない者などこの学園にいらない」
そう言われてもどうやればいいのかわからない。願うと一括りに言ってもどう願うのかが。
いや、こんなところで躓いてられない。元素がないのならこの学園から追い出されてしまう。
(玲美、今の話を聞いていたか?)
(うん)
(それじゃあ、頼むぞ)
少し間があって。
(……わかった。やってみる)
小さく返事をされた。
汗が噴出す。緊張する。黒髪の教師は蓮都を射殺すように見ている。
(いくよ、蓮都)
ゆっくりと首を縦に振る。準備はとっくにできていた。
――瞬間。
「――――う、がぁぁぁあああ―――――――――――ッ!」
――熱い。体の芯。体内からの元素の奔流が容赦なく蓮都を灼いた。
熱い。喉が痛い。何かを叫んでいるが声にならない。
熱い。体からマグマが溢れ出すような感覚。
熱い。視界が歪む。
熱い。燃え盛る火炎に当てられ、汗が石張りの床を黒く染める。水分を全て搾り出されるようだった。 熱い。気を失ってしまいそうだった。でもこれにさえ耐えればどうにかなる。
だが、やはり常人がその痛みに耐え得るはずもなく、あっけなく蓮都は気絶してしまった。