夕刊
お昼過ぎの時間帯、小林は愛車のジープで、新聞を配っていた。朝刊ではなく、夕刊である。太陽傾き、熱気でこれ以上はないだろうという陽気の中、エアコンをつけてハンドルを回す。
「ーあれ」
お客さんの家に着いた時、重たい荷物を持っている人がいるので、小林はエンジンをかけたまま、停車させ、車から降りる。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、家の奥さんが両手まんばいになった袋を持ち、ふーふーと言っている、
「こんにちは、小林さん」
「こんにちは」
挨拶を交わすと、小林は夕刊を脇に抱え、両手を差し出す。
「俺が持ちます。腰や足にきたらいけない」
「…でも」
「いいんですよ。俺は男だから力がありますし」
袋の片方を受け取ると、夕刊を渡し、もう片方も受け取る。
奥さんは手が痺れたのか、振っている。
「本当にすみません」
「いや、いいんですよ。これくらいはやらせてください」
「先に玄関を開けてきますね」
奥さんは夕刊を大事そうに持ちながら、玄関へ向かう。
どうやら施錠していたらしく、鍵を取り出すと、玄関を開ける。
「ここに置いてください」
「はい。…よいしょっと」
玄関の床にビニール袋を置くと、小林は手を払う。
「ここで大丈夫ですか?」
「大丈夫です。あとは私がするので」
奥さんはにこりと笑ってくれ、小林はほっとする。
「ありがとうございました。あとは夕刊も、お疲れ様です」
「はい。仕事な真面目にやらないと」
ははと声を立てて笑うと、小林は頭を下げ、行こうとする。
すると奥さんが追いかけてきて、声をかけてくる。
「ちょっと待ってください」
「はい?」
小林は不思議に思ったが、奥さんがあるものを差し出してくる。
「ーこれ、どうぞ」
差し出されたのは、パックのジュースだった。
味はグレープ。
小林は戸惑い、奥さんに言う。
「これは…。その、大丈夫です。いただくわけにはいきません」
「いいから。夏は過ぎたとはいえ、まだまだ暑いですから」
強く押してくるので、小林は戸惑いながら受け取る。
冷蔵庫から出したばかりなのか、冷えていて美味そうだった。
「運んでくれたお礼です」
「ありがとうございます」
小林は礼を言うと、ジュースを大事そうに持つ。
「じゃあ自分はこれで」
「はい。また明日」
手を振られたので、頭を下げることで返す。
車に戻ると、玄関のドアが閉まったので、ジュースにストローをさす。
「…美味しい!!」
小林は喉が乾いていたので、とても嬉しかった。
人間、良いことをすると、良いことが返ってくると、言葉を噛みしめる。
一気にごくごくと飲んでしまうと、パックを潰し、ごみ箱へ捨てる。
「…さて、次に行くか」
機嫌良く独りごちると、車を移動させたのだった。




