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天啓

作者: 床擦れ
掲載日:2026/04/06

 春の前、田圃でんぽの中に男が一人いた。

 くわを振るうのに疲れ、汗をぬぐいながら休む所を探していると、外れ、あぜの上にかぶを見つけた。

──丁度良い

 男が腰掛ける為に近付こうとした時、物陰から影が、ひとつ飛び出してきた。

 うさぎである。

 どこか焦っているらしい羽のような耳を注視していると、その兎は勢いのまま、男の休もうとしていた切り株にたった。

 動かない。

 やれ、と思った男は切り株に近づき、動かぬ兎を手に取った。頭がまりの様に動いている。

 くびれたのだ。

 肉が取れた、と思った。兎を殺した切り株が、そのまま不思議に思えた。

 ならば、触れてみようかと思った。

 男は切り株に、兎のしかばねを抱えたまま、座り込んだ。遠くに丘が在り、近くに木が在る。

 冬の残滓ざんしに、土は乾いていた。それとは対蹠たいしょに、木が花を付け始めている。

──なかなか、映えている

 男は空に映る花の輪郭を、星のように眺めた。

 しかし、星とは違う。星が匂うわけが無い。

 しばらく腕に兎の尸を抱えたことを忘れ、空気に身を任せて、ただ時を過ごした。

 東から風が吹き、乾いた砂が巻き上がった。砂が、花の高さにまでいった。

 その風景が、男の理屈をはっきりとさせた。

──そういうものだよな

 男は己が農夫だったと思い出して、家へ帰ろうとした。

 目を下げると、今まで見つめていた花を、枝に咲かせていた木の幹に気が付いた。

 土から生え、上に伸び、八方へ拡がり、花果かかかせている。

「ああ、はあ」

 男は少し笑うと、兎を持ったままで家へと帰った。

 家に帰れば、妻と子供がいる。子は気儘きままで、妻は癇癪かんしゃくを起こしている。

「私の夫は何してたの」

「すこし、ぼうっとしててな」

「だめじゃないの、まったく」

 あきれた声を、男の妻は出した。そして

「で、その兎はなに」

ということを、男にただした。

 男は仔細しさいを話した。その話を、妻は興味深そうに聞いた。

「二匹目の兎を待ってたってことかい、くだらない。さっさとあつものにするよ」

「そうだなあ。そういうことに、しておいてくれ」

 はぐらかした男のことを、妻は再び呆れ返した。

 誤解だ、と言うことも、男には勿体無もったいない気がした。

 すぐに、村中に男の奇行が知れ渡った。ともがらは皆が、男の固執をあざけった。

「お前はそんな偶然を、また求めたのか。痴呆ちほうだな」

 そのような言われ方もしたが、男はただ

「そう言うな。天啓があったんだから」

と、只管ひたすらに返すだけだったという。

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