78/163
試運転の日
試験当日、制御室は混乱の渦だった。モニターは赤く点滅し、電力系統の断絶音が戦鼓のように響く。変圧器停止、シールドマシン停止、特殊コンクリートは制御不能で硬化寸前。
「外部ネットワークエラー? バックアップは三系統あったはずよ!」
一秒ごとに数百万ユーロが消える。前金は酸素。ここで尽きれば終わり。
自動ドアが開く。入ってきたのは監査官。ノートとペンを手に、ただ記録する。助けない。ただ書く。明朝にはその報告がアドリアンの机に届く。
そこへ現れたのはパトリシオ。汗だくで、英雄気取りの笑み。
「岳! 爆発を聞いた! 電気に詳しい友人を連れてきた! 俺が救う!」
仮面が剥がれる。心配する夫ではない。自分が不可欠だと証明したい男。すべての計画が、彼の虚栄で崩れかける。
岳は深く息を吸う。
「パトリシオ。今は英雄ごっこをする時ではない。あなたの行動は状況を悪化させる。下がって。助けたいなら、見て学びなさい。それだけが生き残る方法よ」
監査官は書き続ける。
岳はシミュレーションを修正し、契約を再配分し、下請けを再編成する。混乱は制御できる。愚か者も抑えられる。
生き残るとは、波乱なく勝つことではない。
混乱の中で立ち続けることだ。
それでいい。
岳張にとっては、それで十分だった。




