白蓮の堕落
ジュリアンは音楽室にいた。古い木の香りと、窓を叩く雨音に囲まれている。
彼はクララの両手を包み込み、長年磨き上げた殉教者の視線で彼女を見つめていた。
「クララ……アドリアンの金は穢れている」
彼は囁く。
「彼が稼ぐ一ユーロごとに、君の鎖が増える。
誠実さだけは金で買えない。約束してくれ……彼の——」
高級エンジンの轟音が演説を引き裂いた。
黒いSUVが四台。
血のように赤いスポーツカーが一台。
屋敷の正面階段前に停止する。
ジュリアンは窓へ歩み寄り——言葉を失った。
スポーツカーのドアが開く。
セレナが降り立った。
彼女は純白のスーツを着ていた。体のラインを完璧に抱く仕立て。
サングラスをゆっくり外す仕草は、まるで世界が彼女の登場を待っていた舞台のようだった。
【ジュリアンのシステム:警告!
SSS級美貌を検出。
伝説級攻略対象:セレナ・ヴィレッリ
状態:フリー】
ジュリアンの体温が上がる。
——この美は俺のものになるべきだ。
彼はまだクララの手を握っていることすら忘れていた。
「……あの人、誰?」
クララが尋ねる。
「仕事関係……だろう」
彼はどもりながら鏡の前でネクタイを直す。
クララが見たことのない焦燥だった。
数分後。
大広間には全員が集まっていた。
アンリ・ヴァルモンとエリーズは暖炉のそばに立ち、突然の訪問に興味を示している。
扉が開く。
アドリアンがセレナを伴って入室した。
彼女の腕は自然に彼の腕へ絡んでいる。
セレナの姿勢は完璧。表情は穏やか。
だが内側では、何かが震えていた。
彼女は長年、ヴァルモン家を研究してきた。競い、交渉し、尊敬し、軽蔑してきた。
その家に正式な同盟者として立つ。
——想像しすぎた勝利だった。
しかし彼女は、一切それを表に出さない。
アドリアンにとっては、単なる戦略会議に過ぎない。
「父さん、母さん」
アドリアンが言う。
「セレナ・ヴィレッリだ。
バイオテック部門の筆頭共同経営者になる。
こちらはアンリとエリーズ。
そして妹のクララだ」
セレナは優雅に頭を下げた。
「お会いできて光栄です」
アンリは計算高い興味を浮かべる。
エリーズは——危険な女を見抜く女の目で彼女を観察した。
クララは息苦しさを覚える。
セレナの磁力のような存在感。圧倒的な自信。
自分の家なのに、小さく感じた。
そのとき。
セレナの視線がゆっくり動き——ジュリアンで止まる。
彼は隅で知的さを装っていた。
——失敗していた。
「そちらの紳士は?」
セレナが静かに尋ねる。
ジュリアンは無意識に一歩前へ出た。
アドリアンは微笑む。
処刑人の穏やかな笑みだった。
「ジュリアン・ヴェイン医師だ」
彼は友好的に肩へ手を置く。
「予防医療の天才。
ちょうど、セレナが七桁報酬の医療責任者を探していると言っていたので……彼を思い出した。
偏頭痛の治療に閉じ込めておくには惜しい才能だ」
ジュリアンの足元が崩れる感覚。
七桁?
この女と働く?
「責任者……ですか?」
謙虚を装うが、視線はセレナを貪る。
「あなたの壮大なビジョンに貢献できるなら……光栄です、ヴィレッリ様」
クララの顔が青ざめた。
「でもジュリアン……
私の治療が最優先だって言ったじゃない。
家族のお金なんて関係ないって……」
ジュリアンは彼女を見なかった。
セレナの笑みに釘付けだった。
「クララの健康は重要だ」
彼は早口で言う。
「だが医師として、多くの命を救う義務がある。
もしセレナ様が、私に大規模改革を任せたいと言うなら……断る方が利己的だ」
【ジュリアンのシステム:ディン!
任務受領『セレナと共に権力へ』
妹の好感度:−200】
クララの胸で何かが壊れた。
痛みだけではない。
屈辱。
そして、自分が最初から重要ではなかったのではないかという疑念。
アドリアンはソファから静かにワイングラスを回していた。
隣にはメイラン。ジュリアンを軽蔑の目で見ている。
「寛大だな、ジュリアン」
アドリアンが呟く。
「セレナは従業員に非常に厳しい。
君がその“速度”について来られることを願うよ」
セレナはジュリアンへ歩み寄る。
個人空間を侵す距離まで。
香水の香り。
——権力。
——成功。
——危険。
「明日、朝七時。私のオフィスで」
彼女は彼の腕にわずか触れる。
「待たせないで。
遅刻は野心の欠如と同じくらい嫌いなの」
ジュリアンは宗教的な熱意で頷いた。
その背後で。
クララは涙を流しながら大広間を走り去った。
誰も止めない。
ジュリアンは気付かなかった。
彼は白いスーツの輝きと——
巨人の隣を歩く人生の幻想に酔っていた。
一方、セレナはアドリアンの隣へ戻る。
ほんの一瞬だけ。
ヴァルモン家の広間を見つめた瞳に、抑えきれない高揚が宿る。
だが次の瞬間。
その表情は再び、完璧な大理石へと戻った。




