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ナラティブ修正

報告書が届き始めたのは、二日後だった。


一斉ではない。

混乱した形でもない。


整理され、分類され、外科手術のような正確さで要約されていた。


アドリアンは私室の執務机に座り、午後の斜めの光を背に、それらを黙って読んでいた。

急ぐ必要はない。

真実は逃げない。


――ロッシュ家。


その姓は、グラフ、財務表、成長予測の中に何度も現れた。


「……やはりな」


ロッシュ家は裕福だ。

だが、強大ではない。


資産は堅実で、一般的な基準では十分以上。

快適な生活、一流の教育、ある程度の社会的立場を保証する程度の富。


それ以上ではなかった。


ここ数年の急激な上昇を正当化できるほどでは、到底ない。


ページをめくる。


そこに答えがあった。


匿名の「基金」。

静かな資本投資。

そして――偶然にもヴァルモンの名を中心に回る企業との、有利な契約。


点を結ぶのに、天才は必要なかった。


“元の”アドリアンが、アストリッド・ロッシュと出会った瞬間から、

機械は動き始めていた。


影の中で。


間接的な資金援助。

理由もなく開く扉。

いつの間にか消えていく競合相手。


一度きりの行為ではない。

継続的で、計画的で、そして高価なものだった。


ロッシュ家の成長は、才能でも偶然でもない。


――スポンサーだ。


「……愚かだな」


怒りはなかった。

あるのは、冷たい軽蔑だけ。


アンリ・ヴァルモンの抑制がなければ、

それはさらに暴走していただろう。


制限も、引き返す道もなく。


予測によれば、あと五、六年同じペースが続いていれば――


ロッシュ家は、ヴァレンハイムの頂点を争っていた。


たった一人の少女のために。


アドリアンは椅子にもたれ、乾いた笑いを漏らした。


「……元の俺は、本当に馬鹿だ」


最悪なのは、すでにしたことではない。

その先に、何をするつもりだったかだ。


小説はいつも同じだ。

恋に落ちた悪役は、止まるタイミングを知らない。


一つの譲歩は、次の譲歩を呼ぶ。

“小さな支援”は、いつしか依存になる。


そして気づいた時には、

幻想のために王国を差し出している。


――アストリッド・ロッシュ。


未来の主人公の妻。


彼女を助けることは、ロマンではない。

それは、自滅だ。


アドリアンは最後の報告書を閉じ、内部通信を起動した。


「財務責任者と法務責任者を呼べ。今すぐだ」


数分後、二人は彼の前に立っていた。


「確認したい」

アドリアンは前置きなく言った。

「ヴァルモン家とロッシュ家の間に存在する、すべての契約、投資、間接的な取引だ。例外なく」


「複数あります、若様。中には長年続いているものも」


「結構」

アドリアンは頷いた。

「すべて、解除しろ」


沈黙が落ちた。


「……すべて、ですか?」

弁護士が慎重に言葉を選ぶ。

「中には戦略的なものも――」


アドリアンは視線を上げた。


声を荒げない。

眉も動かさない。


その必要すらなかった。


「すべてだ」

「例外はない。

綺麗な解約条項。最低限の補償。

我々に辿り着く痕跡は、一切残すな」


二人は一瞬、視線を交わした。


「公式な理由は?」


「再編成だ」

アドリアンは答えた。

「優先順位の変更。関心の終了」


一拍置く。


「それから――」

「今日以降、ヴァルモン家とロッシュ家の関係は全面禁止だ。

直接・間接を問わず。

商業、政治、社交、すべてだ」


弁護士は素早くメモを取った。


「了解しました」


「ロッシュ家の“幸運”は、ここで終わりだ」

アドリアンは締めくくった。

「そして誰であれ、独断で“助けよう”などとは考えるな」


「たとえ……」


「それでもだ」


再び沈黙。


「下がれ」


扉が閉じ、アドリアンは一人になった。


高所から街を見下ろす。

ヴァレンハイムは、何事もなかったかのように動き続けている。


力を得る者。

失う者。


個人的な感情はない。


ただ――秩序だ。


「もしこれが小説なら」

彼は思った。

「悪役の失敗は、いつも同じだ」


愛を弱さと勘違いする。

欲望を運命と取り違える。


彼は、同じ過ちは犯さない。


主人公の女に資金を出さない。

英雄の道を舗装しない。

踏み台にはならない。


主人公が上がりたいなら、

見えない補助なしでやるべきだ。


そしてアストリッド・ロッシュは――


金が空から降ってこなくなった世界で、

自分の価値を知ることになる。


元のアドリアンは馬鹿だった。

鶏でさえ卵を産めば鳴くのに、

彼は“静かな支援”に意味があると信じていた。


アドリアンは、わずかに笑った。


残酷ではない。


これは――

ナラティブの修正だ。


そしてこの世界に目覚めてから初めて、

彼は勝つために盤を動かしていた。

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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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