「二つの道」
錬丹殿は静まり返っていた。
偉業を前にした敬虔な沈黙ではない。
熟練者たちが――狂気を目撃させられている時の、不快な沈黙だった。
六人の錬丹師。
全員が老練。
全員が数十年――中には数百年の経験を持つ。
そして全員が、流動翡翠亭に招集され――
錬丹すら修めていない若造に従うために、ここにいた。
アドリアン――
彼らにとって「ルシアン」という名は発音しにくい異国語に過ぎない――は、中央の作業台の前に立っていた。
錬丹師の法衣は着ていない。
徽章もない。
儀礼的な敬意もない。
持っているのは――
大量の巻物だった。
「工程を繰り返してください」
彼は言った。
「ただし――一緒にはやらない」
一人の錬丹師が眉をひそめる。
「……どういう意味だ?」
「処方を分割します」
「第一段階:抽出」
「第二段階:安定化」
「第三段階:融合」
「各班が個別に作業する」
「それでは火の調和が崩れる!」
別の錬丹師が反論する。
「天級丹薬には統一が必要だ!」
アドリアンは視線を上げた。
「必要なのは統一ではありません」
「必要なのは――整合性です」
沈黙。
誰も否定できなかった。
理論上――
間違ってはいない。
脇では、スー・メイランが腕を組み、静かに観察していた。
口は出さない。
だが彼女がそこにいるという事実だけで――
全員が従わざるを得なかった。
「霊火温度を二割下げてください」
アドリアンが指示する。
「不足分は火ではなく、時間で補う」
「精華が劣化するぞ!」
錬丹師の一人が声を上げる。
「ええ」
アドリアンはあっさり認めた。
「三割ほど劣化します」
間。
「だが――三人に一人が死ぬ不安定性も消えます」
空気が凍り付いた。
錬丹師たちが視線を交わす。
「蒼暁草は使いません」
「代わりに低位薬草を三種、相補特性で代用します」
「純度は求めません。構造を求めます」
「そんなもの、元の等級には届かない」
誰かが呟いた。
「分かっています」
アドリアンは声を荒げない。
「私は天丹を作っているのではない」
全員が彼を見た。
「私は――常に機能するものを作っています」
霊火が灯る。
一つではない。
六つ。
工程は長く、執拗で、
彼らにとっては不自然だった。
測定。
記録。
再現。
やがて、一人の錬丹師が丹薬を手に取った。
指先で回し、
拡大鏡で観察し、
熟練の眼で精査する。
彼の表情が変わった。
最初は――困惑。
「……あり得ない……」
次に――抑え込まれた驚愕。
「天輝はない……だが……」
「霊力が完全に安定している。揺らぎがない」
他の者たちが息を呑む。
「……本当に修煉丹なのか?」
彼はゆっくり頷いた。
「神性はない。奇跡でもない」
「だが――機能する」
「規則が許す以上に」
錬丹殿がざわめいた。
――機能する。
――しかも誰にも理解できない方法で。
アドリアンは黙って彼らを見ていた。
可能性の定義を書き換えた人間の、冷静さで。
「……不可能だ」
誰かが呟く。
「いいえ」
アドリアンは言った。
「凡庸です」
その言葉は侮辱のように落ちた。
「効率は原型の六五%」
「だが崩壊しない」
「毒性もない」
「錬丹師の精神状態にも依存しない」
彼は丹薬を机に置いた。
「そして――一日百個、生産できます」
沈黙。
驚愕ではない。
計算の沈黙だった。
歴史的競売で、
この等級の丹薬は一世紀に十数粒。
それを――
彼は日産できる。
最年長の錬丹師が蒼白になり、
ゆっくりと頭を下げた。
アドリアンではない。
丹薬という概念そのものに。
「もし公表されたら……」
彼は震えた声で言う。
「伝統市場は……消える」
スー・メイランが微笑んだ。
喜びではない。
純粋な興味。
「消えないわ」
彼女は言った。
「置き換えられるのよ」
彼女はアドリアンへ歩み寄る。
「名前は?」
「基礎安定丹」
「奇跡は起こしません」
「天才も生みません」
「ですが――結果を保証します」
彼女は片眉を上げた。
「凡人でも生き残り、成長できる」
「……それは勢力図を変える」
アドリアンは頷いた。
「その通りです」
「注文生産も可能」
「百年競売を待つ必要はない」
「馬鹿げた価格も」
「人工的な希少性も――終わりです」
錬丹師たちは沈黙した。
流動翡翠亭の会議室。
空気は重かった。
スー・メイランが上座から彼を見つめ、
長老たちが取り囲む。
「アドリアン・ヴァルモン」
彼女は言った。
「あなたの事業は利益以上の成果を示した」
「流通。安定。
そして――基礎安定丹の絶対独占」
ざわめきが起きる。
「よって提案する」
「あなたに――翡翠亭“準長老”の称号を与える」
沈黙がさらに深くなる。
「準長老……」
アドリアンは言葉を確かめるように繰り返す。
「商会決議への投票権」
「生産枠への影響力」
「商業同盟権……」
スー・メイランは微笑んだ。
「その通り」
アドリアンは腕を組み、
瞬時に計算した。
わずかに笑う。
「つまり――私は独占を売るだけじゃない」
「誰が市場に入るか」
「誰が排除されるか」
「誰が流れの恩恵を受けるか」
「それを決められる」
年長の長老が息を吐く。
「この若者……」
「交渉が上手いだけではない」
「ルールそのものを変えている」
「その通りよ」
スー・メイランは頷く。
「そして今、そのルールには彼の票が加わる」
アドリアンは軽く頭を下げた。
「完璧だ」
「独占確立」
「二重の保護」
「直接的影響力」
「――ようやく、本当のゲームが始まる」
一方その頃――
鋸歯暗影洞窟・下層。
イェ・チェンは荒い息を吐いていた。
かつて白かった法衣は、
魔獣の血と泥でぼろ布同然。
肩には深い裂傷。
気は、消えかけの蝋燭のように揺れている。
彼の前には――
四級黒曜蠍の死体。
戦闘時間:六時間。
防護符三枚消費。
腕を失いかけた。
すべて――
一つの霊茸のために。
「……やっと……」
声が割れる。
「冷髄茸……安定剤……」
震える手で、
鍾乳石の根元から青い茸を引き抜いた。
伝説の安定丹の核心素材。
教本によれば――
高等魔獣を倒さなければ入手不可能。
これで。
数日間の強制瞑想。
四割の爆炉リスク。
自作丹炉。
完成するのは――
たった一粒。
だが、それで。
突破できるかもしれない。
そして――
リン・ユエに相応しくなれるかもしれない。
彼は茸を握り締めた。
知らない。
同じ空の下で。
別の男が。
すでに――
その丹薬を量産していることを。




