気が水晶を砕いた時
百年もの間、青雲山には訪問者がいなかった。
霧が深く、動かぬ海のように立ちこめ、風は鋭い刃のように吹き抜けるその地で、ただ一人の男が己の肉体と精神を鍛えていた。
宗派もなく、師もおらず、世界の記録に名を残すこともない。
その名は、梁晨。
その朝、目を開けると、空気がかすかに震えた。
それは爆発でも雷鳴でもない。もっと微細な変化だった。葉はそよぎ、岩の上の積雪はゆっくりと滑り落ちた。彼の内なる気の流れは、古文書にしか記されない安定を達成していた――生きた人間でそれを見た者はいない。
梁晨は立ち上がった。
筋肉はしっかりとしているが、誇張はなく、無駄がない。
鍛えられた刀のように、余計な装飾も力みもない。
衣は簡素で、時と風に擦り切れ、修繕を繰り返していた。背には古びた革袋。乾燥した薬草、銀の針、手書きの古い医術書が入っている。
「修行は終わった」
彼はつぶやいた。
声に喜びはなく、ただ確信だけがあった。
呼吸の計算と天の巡りを経れば、世界は変化しているはずだった。帝国は滅び、王朝は朽ち、凡人は忘れる。下山の時だ。
梁晨が林間の空き地を一歩踏み出すと…
二歩目で覚えのない小径に出た。
三歩目で磨かれた石畳。
四歩目でこれまで聞いたことのない轟音が響く。
金属の咆哮が谷を裂いた。
梁晨は身を固め、脚を屈し、戦闘態勢を取った。
曲がり角から、脚のない鋼の獣が煙を吐き、異常な速度で進んできた。
車両は彼の横を通り過ぎ、止まらなかった。
中の男は小さな光る装置に向かって笑いながら話していた。
梁晨は数秒間、静止した。
「機械陣法か……いや、霊気の流れはない」
彼はつぶやき、歩みを進めた。
一歩ごとに世界は奇妙さを増す。
天空を映すガラスの塔。
変化する記号を映す光の箱。
互いを見ず、危険を感じず、自然の序列を無視して歩く群衆。
誰も頭を下げず、
誰も後退せず、
誰も二度見しなかった。
梁晨がもはや認識できない世界へ降りていく頃、エレナは自身の下降の準備をしていた――
同じく奇妙で計算された領域、だが水晶と黒い布でできている世界。
企業ディナーは、エレナが想像したものではなかった。
レストランは控えめながら異常に高価なホテルの最上階にあった。
濃い木材、計算された距離で離れたテーブル、キャンパスを模型のように見下ろす眺め。
目で所有できる世界。
エレナは力強く歩き入った。
完璧なスーツ。背筋を伸ばす。黒いストッキングはもはや権威を示す必要はないほどの力を支えていた。
頭の中では、長いテーブルに並ぶ経営者たち、練習された笑顔、見えない序列――狼たちの席を思い描く。
しかし、そこにいたのは一人だけだった。
アドリアンは窓際に座り、ワインを片手に静かに待っていた。
彼女を見ると、微笑んだ。征服ではなく、確認の笑み。
「企業ディナーじゃなかったの?」
半ば疑いながら、エレナは立ち止まる。
「そうだ」
彼は落ち着いて答えた。「君も僕も企業家だろう?なら、全て条件を満たしている」
彼女は不信の短い笑いを漏らした。
「冗談でしょ」
「いつもだ」
エレナは一瞬迷った後、彼の前に座った。
嫌々だと自分に言い聞かせる。
アドリアンは脚の組み方に気づく。黒いストッキング。何も言わず、少しだけ微笑む。
夜は慎重に注がれる酒と、精密な会話の間に進んだ。
感情の話はなく、システムとインセンティブ、人々が道徳を構造と混同することを話した。
アドリアンが話を聞く――それは肉体的な動作以上に彼女の心を揺さぶった。
残りは言葉を必要としなかった。
朝は儀式もなく訪れた。
黒いストッキングはスイートの床に散らばり、途中で放棄された考えのように横たわる。
光は高価すぎるカーテンを通して柔らかく差し込む。
エレナは目を開け、すぐに違和感を覚えた。
まず、静けさが高価すぎる。
次に、シーツが自分のものではない。
三つ目、椅子の背に黒いストッキングがかかっている――誰かが首にかけようとしたが途中で諦めたように。
「完璧だ」
彼女はつぶやいた。
隣のスペースは空っぽだった。
奇妙にも、それが彼女を安心させた。
ゆっくりと起き上がる。体は痛まず、しかし不快な記憶が蘇る――重要な会議で言うべきでない言葉を思い出すように。
窓からコーヒーメーカーの音。
「なるほど……コーヒーか、当然だ」
アドリアンは背を向けたまま、白シャツ、袖まくり、キャンパスを敵対的買収でも評価するかのように見つめる。片手にカップ、もう片方に携帯。
「おはよう、博士」
彼は振り向かずに言った。「コロンビア産だ。柔らかさを信じるな」
エレナは喉を清めた。
「朝からそんな話し方なの?」
「正しいときだけだ」
彼女は慎重に組み立てた気品で立ち上がり、床のストッキングを手に取る。
一瞬、法医学的証拠のように扱う。
「これは見た目通りじゃない」
アドリアンは静かに振り向き、ほとんど挑発的な落ち着きで見つめる。
「特に考えていたわけではない。ただ、ありがとう」
沈黙。
眉をひそめる。
「からかわないで」
「絶対に」
微笑む。「昨夜は…驚くほど秩序立っていた、あなたとしては」
エレナは唖然。
「は、は?」
「倫理的なスローガンは叫ばず、ウェーバーも引用せず、社会正義の話も一度もなし――少しがっかりした」
彼女はついため息。
「あなたって本当に不愉快ね」
「それでもここにいる」
それだけで彼女は全てを奪われた。
エレナはベッドの縁に座り、脚を組み、自動的に動作。
初めて、自分がまだシーツに包まれていることに気づく。
「これのために来たんじゃない」
自分に言い聞かせる。
「誰も来ない。踏み外すだけだ」
アドリアンが答える。
彼女が反論しようとした瞬間、携帯が震える。
「オリバーが昨夜三回電話した」
現実が濡れたコートのように覆いかぶさる。
「何かあった?」
防御も、敬称も、距離もなく口をついて出た。
彼は余計に見つめてから答える。
「オーガニックカフェで問題がある。梁晨という男だ。根と針で学生を治療している」
エレナは目を閉じた。
「違法だ」
「知ってる。警察も」
「じゃあ…」
「オリバーが保釈金を払った」
「残り2000ユーロ、最後の金だ」
彼女は顔に手をやる。
「学ばないのね」
「いや、しかし一貫している。それが自分を危険に晒す」
彼は携帯をナイトテーブルに置く。近づかず、触れず。
「今や、借金、即席の殉教者、英雄譚――爆発寸前のカクテルだ」
エレナは視線を落とす。ストッキング、シーツ、手。
「で、私に何を望むの?」
皮肉も挑戦もなく、ただ正直な疲労。
アドリアンは頭を傾げる。
「追放命令を書いてほしい。完璧な文章で、倫理的に反論できず、行政上もクリーンに」
沈黙。
深呼吸するエレナ。
「権力の濫用よ」
「その通り。でも今日は違う。今日は物流だ」
彼女は顔を上げる。
「いつもそうやって分けるの?」
「重要なことだけ」
エレナは窓まで歩き、キャンパスを見下ろす。
「シャワーを浴びたい」
「もちろん」
「コーヒーも」
「もうできてる」
「そしてストッキング」
床を指す。
彼は床を見て微笑む。
「遅い。もう俺のもの……戦利品だ」
彼女は肩越しに見返す。
疲れ、降参、危険なほど心地よい。
「不愉快よ。慣れないで」
「慣れない。君にやらせたい」
エレナは首を横に振る。
だが議論はしなかった。
そして、それだけで十分だった。




