ダメージコントロール(後半)
ヴァルモント家の救出部隊は「到着」しなかった。
――最初から、そこにいた。
黒く焼けた基地の残骸に溶け込むように、瓦礫と同化した姿で、何時間も、あるいは何日も前から。
肌には埃。衣服は廃墟と区別がつかない。
呼吸は一定。無駄な動きは一切ない。
彼らが待っていたのは、ただ一つ。
適切な瞬間。
巡回がずれた。
死角が生まれた。
ほんのわずかな判断ミス。
――その瞬間、世界の状態が切り替わった。
叫びはない。
警告もない。
あるのは実行だけ。
最優先事項:カトリーヌ・スターリングの確保。
目標確認:生存。意識あり。行動可能。
二名のオペレーターが最初に侵入した。
名前は聞かない。
感情の確認もしない。
一人が拘束具を切断する。
もう一人が身体を覆い、バイタルを確認する。
「第一目標、確保」
それだけだった。
次の優先事項:誘拐犯の無力化。
それは戦闘ではなかった。
清掃だった。
近距離。
精密。
過剰なし。
無駄な動作なし。
物語を生まない種類の暴力。
結果だけを残すための処理。
最後の一人が倒れても、誰も達成感を示さなかった。
カトリーヌは即座に退避させられた。
振り返ることはなかった。
数キロ離れた場所で、小型機がエンジンをかけたまま待機していた。
国籍表示なし。
登録番号なし。
履歴もない。
彼女が搭乗した瞬間、離陸。
途中、大きな都市で短い経由。
そこから、より快適で、より目立たない航空機へ。
“普通”という名の最終的な贅沢。
その都市で、一本の連絡が入った。
「第一目標、回収完了。負傷なし。状態安定」
「第二目標:誘拐犯、全員排除」
通信の向こう側は沈黙した。
「指示を」
アドリアン・ヴァルモントは、声色一つ変えずに答えた。
「カトリーヌを、元の都市へ戻せ」
それだけ。
質問なし。
安堵なし。
慰めと誤解される言葉は、一切なかった。
通信は切れた。
カトリーヌはその会話を聞いていなかった。
だが、意味は理解していた。
アドリアン・ヴァルモントにとって、
彼女は「救出された」。
そしてこの一連の出来事は――
ただの事務処理だった。
世界は、何事もなかったかのように、
秩序を保ったまま動き続けていた。




