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ダメージ・コントロール

ヴァルモン家の名が出るまで、数時間がかかった。


動画。

見出し。

感情を煽る演説。


「キャサリン・スターリングは強要された」

「地位のために結ばれた強制的な婚約」

「俺は彼女を救おうとしているだけだ」


別の都市、別の建物で、

アドリアン・ヴァルモンはその映像を最初から最後まで、遮ることなく見ていた。


コメントしない。

質問しない。

姿勢も変えない。


再生が終わると、沈黙が流れた。

その長さが、同席していた者たちを不安にさせるほどに。


「……以上か?」

ようやく彼が口を開いた。


法務責任者がうなずく。


「感情的な反応は、かなり良好です」


アドリアンは、わずかに首を傾けた。


「法的には?」


「ゼロです」


「ならいい」


ファイルを閉じる。


「当面、反応するな」


一瞬、ためらいが走った。


「……否定は、しないのですか?」


アドリアンは初めて、その人物を見た。


「何を否定する?」

静かに問う。

「成人した女性が、証人とカメラ、そして各国政府の前で政治的婚約を受け入れた事実か?」


誰も答えられなかった。


「これは攻撃じゃない」

彼は続ける。

「“告白”だ」


数時間後、公式チャネルに声明が掲載された。


ヴァルモン・グループの印章はない。


あったのは、ひとつの署名だけ。


キャサリン・スターリング。


短く、完璧だった。


*「私の婚約は、十分な判断能力のもとで下した、意識的な決断です。

私の同意なく、私を“被害者”として描く行為は、私の意思の捏造に他なりません。


私を“救おう”とする方々へ。

私は、救われる必要はありません。」*


それだけだった。


即座の反論はなかった。

派手なトレンドも起きなかった。


だが、何かが変わった。


弁護士たちが動き出す。

プラットフォームは、元の動画に「審査中」の表示を付けた。

そして複数の政府機関で、マルコスの名前の横に、不快な単語が記され始めた。


――計画的誘拐。


アドリアンは、日没とともに建物を後にした。


車に乗り込む前、最後の指示を出す。


「すべて記録しておけ」


「……何のために?」


アドリアンは、かすかに笑った。


「“なぜ世界が自分を理解しなかったのか”

 あの愚か者が説明したくなった時のためだ」


小型機の内部は狭く、振動が激しく、距離が近すぎた。

エンジン音のせいで、言葉一つ一つが努力を強いられる。


キャサリンは向かいの席に座り、簡素なハーネスで固定されていた。

怪我はない。拘束もされていない。


それは、マルコスにとって重要なことだった。


彼女に理解してほしかったのだ。


「マルコス」

機体の揺れの中でも、彼女の声ははっきりしていた。

「ここで終わりにして。次の地点で降ろして。今なら、訴えない」


彼は、理解不能なことを言われたかのように彼女を見た。


「戻れない」

そう答える。

「あんなことの後じゃ」


「戻れるわ」


「無理だ」

彼は少し身を乗り出す。

「戻れば、すべて元通りだ。連中が勝つ。――彼が勝つ」


キャサリンは歯を食いしばった。


「“連中”? それとも……あなた?」


マルコスは質問を無視した。


「アドリアンは君を買ったんだ、キャサリン。金じゃない。

 構造で。恐怖で。

 “安定”と呼ばれる金色の檻で。

 本当に、自由に選んだと思ってるのか?」


彼女は、その視線を受け止めた。


「ええ」


一語。

重く、まっすぐに落ちた。


マルコスは、どこか悲しそうに首を振る。


「そう思わされているだけだ」


「違うわ」

彼女は言い返す。

「それは、これを正当化するために、あなたが信じたいだけ」


沈黙が二人の間に伸びる。

エンジン音だけが、それを引き裂いていた。


「俺は君を救っている」

マルコスは、ようやく口を開いた。

「今は分からなくてもいい。遠くへ行って、家族の圧力も、

 投資対象みたいな目で見る男もいなくなれば……理解する」


キャサリンは深く息を吸った。


「救う……あなたが支配する場所へ連れて行くことで?」


マルコスは、すぐに答えなかった。


「そこなら安全だ」


「違う」

彼女は静かに訂正する。

「そこでは、私は一人になる」


彼は眉をひそめる。


「俺がいる」


キャサリンは、見慣れた壁に生じた亀裂を見るような目で彼を見た。


「それが、一番怖いの」


マルコスは傷ついたように背筋を伸ばした。


「俺は君のために、世界の半分を越えた」


「頼んでない」


「全部、君のためだ!」


「違うわ」

ゆっくりと、彼女は言う。

「私に選ばれなかったことを、受け入れられなかっただけ」


それは叫びではなかった。

解剖だった。


マルコスは視線を逸らす。


「混乱してるんだ……」

「環境を変えられて、甘い言葉を浴びせられて……」


「マルコス」

彼女は遮った。

「よく聞いて」


彼が再び見るのを待ってから、言った。


「私は被害者じゃない。

 戦利品でもない。

 あなたの贖罪の物語でもない」


彼は顎を強く噛みしめる。


「すべてが終わった時」

「世界がアドリアン・ヴァルモンの正体を知った時……

 俺に感謝する」


キャサリンは、ゆっくり首を振った。


「いいえ。

 世界が何を見るかなんて、私には関係ない」


少し身を乗り出す。


「でも、あなたは……

 これと一緒に生きていくことになる」


インカムから、操縦士の声が入った。

経由地変更。短い着陸。


マルコスは立ち上がる。


「休め」

「もうすぐだ」


彼女は、その背中を見送った。


「マルコス」

最後に、もう一度。

「これは、愛じゃない」


彼は一瞬だけ立ち止まった。


「最初から、そうは言ってない」

「正義だ」


そう言って、歩き去った。


小型機は進み続けた。

救われた女性ではなく――

引き返せない地点を越えた英雄を乗せて。

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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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