クリスタルの重み
車内の静けさは、宮殿の広間のそれとは違っていた。
宮殿では、静寂は権力の道具だった。
だが、黒いベントレーの革張りのキャビンと先進技術に包まれた空間では、それは距離が伸びるたびに張り詰める縄のようだった。
キャサリンはダイヤのイヤリングを、乾いた、ほとんど暴力的な動きで外した。
普段は正確な指先がわずかに震え、金属が灰皿のガラスにぶつかる音が響く。
「素敵な光景ね、アドリアン」
目を合わせずに言った。声は絹で包んだ刃のようだ。
「横の通路まで行く夜の予定だとは知らなかったわ。ヴァルモント家は今や、暗い廊下で慰めの相談もしてくれるの?」
アドリアンは両手をハンドルにしっかり置き、視線は道路に固定したまま。
「小さな事件だっただけだ」
落ち着いた声で答える。
「アストリッドが平常心を失った。それだけだ」
キャサリンは短く、笑った――ユーモアのない笑い。
「戻ったとき、シャツはしわだらけ、脈は早かった。私を感動しやすい学生扱いしないで。私はあなたのパートナーよ」
顔を彼に向ける。瞳には怒りと――もっと悪いもの、慎重に抑えた恐怖が混ざる。
「そして、パートナーは目に見えるミスを犯してはいけない」
さらに付け加える。
「ましてや、拒絶の『ノー』を受け入れられない破産娘なら尚更ね」
キャサリンはゆっくり息を吐く。
再び口を開くと、その声は変わっていた。
刃は消え、形になっている。
「アドリアン…」
落ち着いた柔らかさで言う。
「私が純粋無垢だと思わないでしょ」
彼は冷淡な距離感で答える。
「聞け、この約束は必要ない」
続ける。
「金のためなら、妥協点は見つけられる」
アドリアンはそれ以上何も言わなかった。
静寂は、ほんの一瞬だが無駄に長く伸びる。
車はその間に数メートル進むが、彼は速度を直さない。
そこに衝撃があった。
キャサリンはすぐには反応できない。
一瞬、手が膝の上で動かず硬直する。
体が、心より先に理解したかのように。
残酷な明瞭さで理解する――制御を失ったことを。
その約束は破れない。
余地はない。代替案もない。
両親も、祖父母も、兄弟姉妹も――全員がその結びつきに縛られている。
もし彼女が手を放せば、救いの網はない。
そして、雪崩が押し寄せる。
敗北した父の姿が見える。
受け継いだ姓を支えきれず、証人のいない出口を探す。
沈黙の中で枯れていく母の姿。
惰性で生き、毎朝少しずつ死んでいく。
兄弟たちは次々と崩れる。
愚かな決断、絶望的な行動、理解できない空白を埋めようとする。
末っ子は――あまりに脆く、衝動的で――最初に倒れる。
全ては彼女のせい。
全ては彼女が失敗したから。
キャサリンは一瞬目を閉じる。
逃げるためではない。
受け止めるためだ。
これは抽象的な恐怖ではない――
「ノー」と言うことで払う正確な代償だ。
そして彼女は、代価を支払う術を知っている。いつもそうだった。
再び話すとき、声は均衡を取り戻していた。
「あなたに伝えたいのは方法だけ」
言う。
「互いの尊厳を保つために、公衆の前では解決できないことがある。証人なしで。弱さや不注意に見える場面もなしで」
沈黙に任せる。
「もしも気が散ることが起きたら――」
慎重に続ける。
「契約を複雑にする変数は必要ない」
かすかに顔を彼に向ける。
「婚約者として、安全な枠組みの中で一定の必要性を守るのは合理的」
口調には約束はない。
リスク管理があるだけだ。
幼いころから、存在だけで会話の流れを変えることを学んでいた。
その夜まで、意図的に使う必要はなかった。
だが、もう受動的でいる余裕はない。
アストリッドを十分に見て、脅威を認識している。
力は拮抗している。
ただし決定的な違いは――彼女が姓、契約、指定された立場を持っていること。
「家族にロマンチックなジェスチャーは必要ない」
付け加える。
「必要なのは安定だ」
アドリアンはハンドルを少し強く握る。
怒りではない。遅れての修正だ。
言葉は二人の間に浮かぶ。
車はわずかに揺れる。
アドリアンはハンドルを過剰に操作して修正する。
信号が赤になる。
深紅の光が車内を満たす。
すべてを閉じる、警告のように。
キャサリンは、自身の感情経験の浅さが、発言を予想以上に明確にしていることに気づかない。
「完全な抑制を求めているわけじゃない」
結論づける。
「求めているのは判断力と明瞭さ」
穏やかに、挑戦的でなく、彼を見る。
「ねえ、アドリアン…私たち、同じ方向を向いてる?」
アドリアンのベントレーが夜に消えるころ、ロシュ家の邸宅は眠らずにある。
李申はロビーで待つ。
眠っていない。
いつもの瞑想で脈を落ち着かせることもできなかった。
原因は内面の乱れではない――もっと原始的なものだ。
感覚から生まれた動揺。
空気自体が重く変わったように感じられる。
扉が開き、アストリッドが入る。
動揺が確定する。
中立だった空間が飽和する。
李申は推測を必要としない。
山で雪の下に埋もれた毒の根を見分け、動物の跡を数時間後でも読み取る訓練をしてきた。
だが今、感じているものは自然界のものではない。
それはデザイナーズの香水。
そして、彼女に残る男性の匂い。
男性の痕跡。
李申はゆっくりと立ち上がる。
急ぐ必要はない。制御がある。
目はアストリッドに止まり、細部をなぞる――ずれたマフラー、肩の硬直、皮膚下でまだ振動する乱れた気配。
「遅いわ」
言う。
非難ではなく、観察。
アストリッドは止まらず進む。
「パーティーよ」
答える。
「儀式じゃない」
「人は遅れてくる」
彼は一歩前に出る。
「でも、こうは戻らない」
数センチまで近づく。触れない。必要ない。
落ち着いて息を吸う。
他人の匂いが残り、印のように彼女にくっついている。
「ワインじゃない」
続ける。
「疲れでも、音楽でもない」
短い間を置く。
「入れさせなかった」
質問ではない。
アストリッドは冷たく、鋭く目を上げる。
「その約束を忘れろって言ったでしょ」
言う。
「起こらない」
李申は、まだ理解していないものを観察するかのように見つめる。
微笑むが、嘲りはなく、古い悲しみ、ほとんど慈悲に近いものがある。
「生まれる前に書かれたことは忘れられない」
応える。
「君と僕は、選択肢ではない」
アストリッドは議論しない。
無駄だ。
振り返らず階段を上がる。
「馬鹿なこと言わないで」
退く際に投げる。
足音は上階に消える。
李申は一人残る。
ロビーの闇が、聖域のように彼を包む。
袖から銀の針を取り出す。細く、完璧。
指で回す。
窓から差し込む月光が輝かせる。
ゆっくり観察する。
「毒は必ずしも血から入らない」
小声で呟く。
「時には、欲望に宿る」
手を閉じる。
「浸透したものは…取り除かねばならない」
針は再び袖に隠れる。
広間の空気は再び静かになる。
だが、中立ではない。




