古い契約と現代の取り決め
李申は夜明けに街へ到着した。
空気は燃料と金属、そして何か――人工的な匂いが混ざっていた。山の澄んだ空気ではないが、不快ではなかった。肩に掛けた革袋を整え、中身を慎重に確かめる:古びた契約書、黄ばんだ紙に師の朱印がまだ鮮やかに残っていた。
一つの約束。
人混みの交差点で足を止め、周囲を見渡す。
――「すみません、ロッシュ家の邸宅はどちらでしょうか?」――通行人に尋ねる。
男は上から下までじろりと見た。
――「ロッシュ家の…邸宅ですか?」――繰り返す。――「どの邸宅ですか?」
李申は眉をひそめる。
――「本邸です」――
男は軽く笑った。
――「友よ、もう使われていません。今は金融街にあります。ロッシュ・ビル、北棟です」
李申は頷く。少し奇妙に感じながらも、感謝して。
邸宅の父親、アストリッド・ロッシュの父は、精神的な訪問者など予期していなかった。
数か月前、家族は破産寸前だった。債権者に追われ、契約書は失われ、築き上げた帝国は崩れかけていた。しかし、娘の学期末式典後、新たな契約が入り、債権者は条件を緩和し、予想以上の猶予を与えた…以前なら確実に財産を奪われていた。
父は財務諸表を見つめて集中していた。そこへ、助手が駆け込む。
――「レオンハルト・ロッシュ様、若者が訪ねてきており、どうしても会いたいと言っています…約束の件だそうです」
父は画面から目を上げ、驚いた。
――「約束…?」
数分後、李申は目の前に立っていた。背筋を伸ばし、尊敬すべき長老に面するかのような落ち着き。高価なスーツは、家族の現在の財政状況を挑むかのようだ。
――「数年前、私の師は貴方の命を救いました。その感謝として、娘アストリッド・ロッシュを弟子に嫁がせるとお約束になったはずです」
沈黙。
父は瞬きをする。
一度、二度。
――「アストリッド…結婚…?」――かすれた声。
かすかに思い出す。ベッド。痛み。注射。熱と恐怖の中で交わされた約束。
表情が変わる。居心地の悪さ。
――「若者よ…ずいぶん昔の話だ」
李申は契約書を取り出し、両手で差し出す。朱印は鮮やかに残り、時間の経過を感じさせない。
父は唾を飲む。
――「娘は…忙しい」――やっと言葉が出る。――「家族の重要な提携を進めている」
――「では、お待ちします」――李申は落ち着き、静かに言う。――「運命の事柄は急ぐべきではありません」
父は笑みを作る。数週間ぶりに、金以外のことで汗をかく。
沈黙の後、肩を正す。
――「できる限りのことはします」――やや強めの声で。――「しかし理解してください…娘は忙しい。過去の約束で動くわけではありません」
李申は動じない。落ち着きは鎧のよう。
――「承知しました。適切な時を待ちます」
父は頷く。若者の眼差しは尊敬以上のもの――確信が宿っていた。
――「欧州企業との非常に微妙な提携を進めています」――ため息をつきながら。――「家族の未来を左右する戦略的契約です」
李申は軽く頭を下げる。
――「では、待ちます。急ぐことはありません」
父は深呼吸し、状況の不快さを噛みしめる。過去の記憶ではない、現在と運命からの要求。長年感じたことのない、制御できない感覚。
大統領執務室の秘密の部屋には窓がなかった。
広く、整ったベッド。乱れたシーツにまだ温もりが残る。空気は重く、嵐の後の沈黙が漂う。
アドリアン・ヴァルモントは仰向けに横たわり、胸がゆっくり上下する。乱れた髪、湿った肌、緊張した筋肉――疲労以上のものを抱えていた。
――いつの間に…?
彼はいつも慎重だった。関与せず、線を越えず、特に目立つ人間には近づかない。
しかし今、ここにいる。
アストリッドは隣に座り、背筋を伸ばし、会議テーブルの支配者のように振る舞う。シーツは脚だけを覆う。片手にはタブレット。計算と予測が開かれている。夢が近い――ついに自分の会社。
――「アストリッド…」――アドリアン、低く、掠れた声で。――「資本…限界は10億ユーロだ」
彼女は見ない。
――「少なすぎる」――落ち着いて言う。――「倍必要」
――「ヴァルモント・キャピタルが出せる」――彼は答える。――「だが、控えめではないな」
アストリッドはシーツの端を指で撫でる。緊張ではない。戦略だ。数日かけて、思い通りに彼を動かす方法を学んだ。
彼女は身を乗り出し、唇を重ねる。抵抗しようとするアドリアン。意思は強いが、身体は抗えない。
結局、屈した。
――「わかった」――小さくつぶやく。
アストリッドは満足し、次の議題へ。
――「利益配分の話をしましょう」――60対40。
彼は目を開く。
――「アストリッド、資本は俺のものだ」
――「会社は私のもの」――彼女が修正する。――「名前、住所、ビジョン、政治的リスクは私が担う」
沈黙。
アドリアンは唾を飲む。
――合理的じゃない。効率的じゃない。…俺のものじゃない。
――「50対50でどうだ」――彼は提案。――論理的。
アストリッドは胸に手を置き、心拍を感じながら再びキス。アドリアンは拳を握り耐える。
――「以前は、欲しいものは全部くれると言った…嘘だった?」――彼女が囁く。微かに抑えた声で震えを混ぜる。
――「42…優先買取権付きだ」――彼は答える。
――「レバレッジは?」――アドリアン。
――「投資家として残る」――彼女。――支配は買うものではなく行使するもの。
彼は顎を噛み締める。
帝国を築き、
他を破壊した。
全て外側から。
知っていた。全ての悪役は破滅する。今は…受け入れ、警戒するしかない。
――「俺は何を得る?」――
アストリッドは見下ろす。
シーツを落とし、彼の上に跨る。
――「アクセス」――耳元で息をかけながら。――構築中の全構造。早期情報。非対称の優位。そして…
軽く唇を重ねる。
――「市場に出る前に全製品に触れる可能性」
これは提案ではない。
売上を確保する行為だ。
重く、親密で、密度のある沈黙が戻る。
アドリアンは顔に手をやり、バランス表、シナリオ、他の可能性を考える。主人公を助ける悪役…英雄を救わせるために。
――どうして俺はここに?全てを掌握していたはずだ。
――いつ自分のルールを破った?
彼は彼女を思う。数分前まで自分の上で動いていた身体を。
――「45…」――最終的に言う。議席と優先権。
アストリッドは少し距離を取り評価。
――「43…同点の場合は投票2票」――
アドリアンは目を閉じる。
息を吐く。
――「決定」
アストリッドは頷く。
――「完璧」
シーツを優雅に片付け、ベッドを離れる。投資ラウンドを終えたかのように。
アドリアンは天井を見つめ、深呼吸。認めたくない真実。
――欲望で負けた。
――自制心で負けた。
――意思が敗れた。
そして別の場所で、古い契約を手にした男が、運命はまだ墨で封印されると信じて待っている…
この物語が始まる前に、すでに終わっていたとは知らずに。




