reverse time to come No.0006 最終話
春江が手紙と腕時計を送ってから1カ月が、経過した。返事はなかった。
腕時計が戻ってきたあの日から春江の中は確かに変化があった。止まっていた針が少しずつ進み始めたような。
ある日の午後、勤務先のロビーで春江は名前を呼ばれた。
振り返ると背の高い青年が立っていた。短髪で、どこか懐かしい面影、目は誰かに似ている。
「あっ、達也?」
青年は少し照れたように笑って
「覚えててくれたんですね」
春江の胸は一瞬で熱くなった。あの写真の中の少年がこんなにも成長して、笑った時の面影はそのまま。
「手紙ありがとう、腕時計懐かしかった 小さかった僕に、腕時計を直す、と言うのは一種の約束みたいなものだったんです」
「約束?」
病院のベットでおじさんが言ったんです。
「この腕時計が動いたら春江も少しずつ笑えるかもしれないなって」
春江は思わず口元を手で押さえた。
涙があふれそうになり、抑えていた。
「僕あの時何もできなかった、でも時間が戻ったこと、聞いて、ようやく約束が果たせた気がしたんだよ」
「ありがとう」
達也は小さく頷きながら、懐から封筒を差し出した。中には新品のバンドが付いたあのアナログ腕時計だった。
電池も交換され、針は静かに正確な時を刻んでいる。
「これ・・・」
「おばさんがくれた時間、僕も大切にしたいから」
春江は涙の中で心は最高の笑顔だった。
「オーバー・リターンだね、ちょっとできすぎた奇跡よね・・・」
「でも奇跡って、そーゆーものじゃない?、できすぎていて、丁度良い」
春江は腕時計を手にした。戻ってきたのは"物"じゃなく、時でもなく、誰かと過ごした記憶と未来へつなぐ道標、それは見えない形見のようなものかもしれない。
「これからは、止めないようにしなくっちゃね」
春江はその言葉をまるで自分自身にむけるように口にした。
腕時計の針の音が心臓の鼓動と重なるように生きている。時間も想いも、自分も、微笑む青年と並んで外へ出ると風がやさしくほほを撫でた。
春江の「新しい未来」が進み始めていた。
この物語は「壊れているけど、動き続ける時計」から着想しました。
時計は過ぎていくものでありながら、ときに、人の記憶・心の中では止まったままになることもあります。不思議なタイミングで、"過去"が現在に戻ってくるとき、私たちはもう一度前進する力をもらえるのかもしれません。
目に見えない「形見」をテーマに物に宿る想いや、見えない絆を描きました。
最後まで拝読感謝申し上げます。
じゅラン椿




