reverse time to come No.0004 声にはしてはいけない気がして・・・
「ちょっと聞いていい?」
昼休みの給湯室。同僚の瞳がカップに紅茶を注ぎながら振り向いた。
「また春江さんの"名言シリーズ?"いいわよ、おなじみだから」
春江は小さく微笑んだ。
"時計が戻ってきたの"捨てたはずのデジタル時計、勝手に。そんなこと言ったら笑われるだけ。そう思ったのに、なぜか仁美の前では本当のことを話してみた。
「昔の腕時計がね、壊れているのに動いてたの 新しい腕時計が、止まってて・・・」
「ん? 何それぇー、ミステリーじゃん」
「あっ、ミステリーかも でも私はあの腕時計を捨てた事で、何か大事なものまで一緒に捨てたんじゃないかって、感じて」
仁美は少し眉を寄せて
「何かあったの?」
「前の腕時計、夫を亡くした後に買ったの 時間が狂っているのにずっと使ってたあの頃もお、何が正しくて、何が間違っているのかもわからなくて・・・」
春江は思い切って口にした。今まで誰にも言えなかった思いだった。
仁美は春江の隣に立ち、温かい紅茶を手渡した。
「その腕時計、戻ってきたというより、帰ってきたんだよ、きっと・・・」
「えっ?」
「春江さんがもう一度"動き出せるように"気づかせるために」
仁美のその言葉が胸を熱くさせた。
春江は自分の紅茶のカップを見つめながら頷いた。
壊れていても、ズレていても、あの腕時計は活きていたんだ。
だから、自分も動き出せばいいのかもしれない、一所に・・・・・。




