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reverse time to come No.0002 触れられなかった記憶

 どうしてこれが、ここにあるの? 春江は時計に時計にそっと手を伸ばした。触れた瞬間冷たいはず液晶が、ふわっと、ぬるさを感じた。


ゴミ袋に入れ、処分したはず、回収場所には1袋も残っていなかったから、不思議だ。


 ふと、時計を裏返すと、見覚えある細かい擦り傷、ボタンの緩みがあった。

これは・・・あの時計? 春江は深く深呼吸した。じーっと時計を見つめた。表示された時刻はずれていた。

 "午前8:11"現在は8:40を差していた。


ズレた時間の中に懐かしい風景がダウンロードされた感覚だった。


♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

この時計を使い始めたのは、二年前。

 

 夫を失くして、総てが止まって、同じ時間を繰り返し、時刻が進んでいる気がしなかった。

職場復帰が決まり、時間に縛られる生活を迎えるとき、安物のデジタル時計を買ったのだった。"時間くらい自分で刻ませなきゃ…"そう思い選んだのよね。

安かったただそれだけで。


 表示時刻が狂っていても、ずっと捨てずに持っていた。


あの頃の私は、どこかで、無理して頑張っていたのかも。


♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 春江は苦笑した、時計が戻ってきた理由なんて、不明すぎるけど、その腕時計はただの"物"ではなく、自分が時間を生き抜き直すため選んだ腕時計だった。


 すっかり忘れていたはずの想いがゆっくりシャッターを切るように瞳に映した。


 新しいアナログの腕時計が、ゆるやかに、静かに止まっていることを、この時春江はまだ気づかなかった。


 


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