reverse time to come No.0001 時計のない朝
「あれ、また遅れてるこの腕時計」
職場の朝礼に数分遅れ、慌てて椅子に座った。
大黒春江は、そっと袖口の腕時計を外した。液晶の時刻は7:52を刻み、実際は8:15を刻んでいた。
数カ月前に買った中古のデジタル時計は時刻を合わせても、スグ狂う。リセットの仕方は、少し複雑で説明書は付帯されてなかった。
(やっぱり新品を買うべきだったな、買いなおしだな)と心で思っていた。
帰り道、春江は駅前の時計店に立ち寄った店員に勧められたのは文字盤が見やすいアナログの腕時計。シンプルで価格もお手頃。
秒針の音が"一緒にくらしてみたい"と告げているように感じた。
その晩 春江は壊れたデジタル時計を不燃ごみ袋に入れ、玄関に置いた。
安堵さえ覚えていた。
"お世話になりました、というほどではないけど・・・"軽く念じ袋の口を結んだ。
ごみの日は明日。これでもう、いらいらの閉鎖だ。
翌朝、袋は収集車に回収され、デジタル腕時計は姿を消した。新しいアナログ腕時計は、快調に動き、朝の準備もスムーズになった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
数日後には、そんな出来事さえ忘れかけていた。
だから、その朝の春江がテーブルの上でデジタル腕時計を見つけた時、自分を疑った。
静止した状態に陥った。ほんの一瞬。
そこで目にしたのは、捨てたはずのデジタル腕時計。
液晶はもちろんズレた時刻が表示されている。
8:03・・・>8:33。
手放したものが戻ってくる?時のいたずら?何かの知らせ?私の記憶違い?




