第6章:混沌の事象の地平面
プライム・タイムライン・クラブは、新たで不安定な状態に突入した。埃と休眠した夢で満ちていた空気は今、鈴音アリサの容赦ないエネルギーでパチパチと迸っていた。彼女は、永続的で混沌とした嵐へと安定化した量子ゆらぎのような存在だった。
「オーケー、まず名前はそのまま。ドラマチックだし、気に入った」アリサは宣言した。野戦司令官のように前線を見渡しつつ歩き回っている。彼女は我々の唯一のホワイトボードを占拠し、今やマーカーの軋む音に琢磨が毎回たじろぐほど猛烈な集中力で殴り書きしていた。「でも、あなたたちのマーケティングは、可能性全体を忘却へと吸い込むブラックホールだ」
「宇宙的な驚異の感覚を喚起するようにデザインしたんだ」僕は、彼女による突然の乗っ取りにまだショック状態で、弱々しく抗議した。
「それはカルト信者からのフリーハグを連想させるわ」彼女は振り返りもせずに言い返した。「人々が無視できないものを提供する必要がある。イベントよ。名前は…『秋葉原・因果性の難問』!」
環境ムード共鳴装置を保護儀礼のようにおどおどしながら再組み立てしていた琢磨が顔を上げた。「難問? いったい何をするんだ? それに、いくらかかる? 我々の運営予算は現在、マイナスだ」
「細かいこと細かいこと!」アリサは歌うように言い、こちらを向いた。彼女の目は輝く星だった。「大きく考えて! メイン広場にブースを出すの。琢磨の一番奇妙な発明を展示する——ムード共鳴装置としてじゃなく、『時間感知型異常検出器』として。ライブ配信、音楽、実演もする!」
「何の実演だ?」僕は、内心で戦う恐怖とスリリングな期待感とともに尋ねた。これはまさに僕が推進してきた、銀河規模の壮大な思考そのものだが、それを人間ハリケーンによって実行に移されると、恐ろしいものだった。
「時間の実演よ、このバカ!」彼女は叫んだ。「それともその幻影ね。プロジェクションやライト、ちょっとしたパイロテクニクスも使うかも——」
「パイロテクニクスは絶対ダメ!」琢磨は悲鳴を上げた。「保険責任だけでも、多次元にわたって我々を破産させる時間的パラドックスを生み出すぞ!」
アリサは不満そうな顔をしたが、それは戦略的な不満顔だった。「わかったわ。火はなし。でも、フックが必要なの。賞品も」彼女の目は僕に向けられ、ゆっくりとした、悪戯っぽい笑みが顔に広がった。「あなたよ。銀河探索者。あなたがメインイベント。スピーチをするの、本物のを。ビラのことでぼそぼそしゃべるんじゃなく、宣言よ! その場で人々にサインアップしてもらうの」
彼女のスペクタクルの中心になるという考えは、僕の胃を締め付けた。公のビラ配布はともかく、仕組まれたパフォーマンスは…違う気がした。「どうかと思う…義父が…これ以上事件を起こすなと言って……」
「これは事件じゃない!」アリサは主張した。声は共謀するような囁きに変わった。「これは解決策よ。これはあなたが世界に——そして堅物先生に——あなたがただの妄想少年じゃないことを示すのよ。あなたは運動のリーダーなんだ! メンバーが集まれば、会費が入る。会費が入れば、家賃が払える。家賃が払えれば、未来が開ける。単純な因果関係よ」
彼女の論理は、純粋で混じり気のない大胆不敵さというプリズムを通して屈折した、僕自身の論理の歪んだ鏡像だった。狂っている。 Brilliant だ。おそらく僕を殺すだろう。
その後二日間、クラブは騒乱状態だった。アリサは自然の力であることを証明し、彼女の社会的コネと純粋な意志の力で許可を取り付け、機材を借り、僕の銀河砂時計デザインとはかけ離れた、派手でミニマルなポスターをデザインした。彼女は琢磨を容赦なく働かせ、その機能が疑わしいままでも、試作品をより印象的に見せるよう強制した。
「俺はエンジニアだ、小道具デザイナーじゃない!」彼女はうめいた。汗をかきながら、今は「タキオンパルス放射器」と改名された装置に点滅するLEDストリップを取り付けている。
「そして、私こそが、誰かにあなたのエンジニアリングを気にかけさせるんだから!」アリサは、悪意なく言い返した。「もっと速く点滅させて。神秘性は売り物なの!」
僕はスピーチの原稿を書く任務を与えられた。プレッシャーは計り知れなかった。いつもの宇宙的な修辞法を呼び起こそうとするたびに、水瀬医師の声が聞こえた:信号の中のノイズ。誤った切開。僕の言葉は空虚に感じられ、信念は揺らいだ。
唯一の息抜きは、青との短い、囁くような電話だった。僕はアリサやイベントのことは伝えなかった。ただ、クラブのための新しく責任ある計画に取り組んでいると伝えただけだ。彼女は希望に満ちた声で、それはただ僕の胃の中の罪悪感の結び目を締め付けるだけだった。
「因果性の難問」の当日がやってきた。アリサは、明かすことを拒否した手段で、秋葉原の広場の一等席を確保していた。音楽、ライト、そして琢磨の点滅しビープ音を立てる機械の見世物に惹かれて、小さな群衆が集まりつつあった。
僕の心臓は胸の中でドラムソロを打ち鳴らしていた。僕は原稿用紙を握りしめ、手の平に汗をかいた。
「お前の出番だ、バズ」アリサは言い、僕を小さな仮設ステージへと強く押した。彼女の目には安心感ではなく、挑戦が宿っていた。「銀河的であることを行け」
僕はスポットライトの中へ歩み出た。群衆の目が僕に向けられる。一瞬、僕は凍りついた。懐疑、退屈、好奇心が見えた。僕のビラを無視した顔々が見えた。そして、後方で、親指を立てて狂気的な笑みを浮かべるアリサが見えた。そして、青のことを考えた。
僕は深く息を吸い、原稿用紙を風に投げ捨て、空を見上げた。
「地球の民よ!」僕は始めた。声はかつての大きな強さを取り戻していた。「君たちはこの街を歩き、単一で直線的な時間認識に閉じ込められている! 過去は消え去り、未来は未知だと信じている! しかし、私はここに告げに来た…君たちは間違っている!」
群衆がざわめいた。僕は自分の本領に戻っていた。銀河探索者は生放送中だった。
僕は時間の海、基本的な力としての愛、無限を超えようとする人間の精神の能力について語った。僕は大声で、妄想的で、人を奮い立たせるものだった。群衆のエネルギーが、懐疑から面白がりへ、そして、一部の人々にとっては純粋な興味へと移り変わるのを感じられた。
僕がクライマックス——「宇宙はでかいが、人間の心はもっとでかい!」——に達した時、実際に歓声が上がった。アリサは受付台で、素早く新メンバーを登録していた。うまくいっていた。実際にうまくいっていた。
その高揚は信じられないものだった。それは僕が夢見た突破口だった。
そして、群衆が散り始め、僕がそこで余韻に浸って立っていると、携帯電話が振動した。僕はそれを取り出し、まだ勝利の笑みを浮かべていた。
画面にはたった一つの名前が表示されていた:水瀬医師。
笑みは消え、冷たい恐怖に取って代わられた。この勝利の現実からの信号が彼に届き、反応が迫っていた。僕は事件を起こしてしまった。そして輝く画面を見つめながら、結果が相対論的な速度で僕の世界線に進入しようとしていることを知った。