第２１章：エンジニアの亡霊
僕の質問の後に続いた沈黙は、今までにないほど重かった。それは不在の沈黙で、世界から切り取られた形で、僕にだけ見えるものだった。琢磨のコーナーは単に空っぽなだけではなかった。間違っていた。そこ空気そのものが違って感じられた。淀んでいて、乱されていない、まるで誰もそこ息をしたことがないかのように。
「琢磨って誰？」アリサがもう一度尋ねた。彼女の声には純粋な心配が込められていた。「リョウ、私たちを怖がらせ始めてるよ」
僕は彼らの顔を見た——アリサの困惑、ミクラの無邪気なエネルギー、青の優しい心配、そして雪華の分析的な視線。彼らにとっては、それは完全な一団だった。僕にとっては、それは中心に巨大な、ぽっかり空いた穴のある肖像画だった。
「彼は…誰でもない」僕は無理やり言葉を絞り出した。声は張り詰めていた。「僕は…思っていた以上に疲れているに違いない。一瞬、もう一人メンバーがいると思ったんだ」
嘘は脆く、裏切りの味がした。僕は親友の存在を、彼を知っているはずの人々がいる部屋で否定していた。
「クラブミーティング」の残りは茶番だった。僕はその動きに従ったが、心は別の場所にあり、虚無の中で叫んでいた。彼はどこにいる？ 彼は別のタイムラインで生きていて、僕がどこへ行ったのか不思議に思っているのか？ それとも、彼という概念そのものが、この現実の分岐から書き換えられてしまったのか？ クロノリンクは単に世界を横断しているだけではなかった。それを消去していた。
他の皆が去った後、雪華だけが残った。彼女は今は空っぽの隅のそばに立ち、首をかしげていた。
「あなたの生理的反応と言語的不整合は、あなたがこの『琢磨』について嘘をついていなかったことを示しています」彼女は述べた。「あなたは彼が存在すると信じています」
「彼が存在することを知っています」僕は声を詰まらせて囁いた。「彼は僕の友達だ。彼は僕と一緒にクロノリンクを作った」
彼女はこれを処理した。「この世界線では、クロノリンクはあなたのプロジェクトでした。あなたの設計ログには共同貢献者は示されていません。設計図はあなたの手書きだけです」
恐怖は深まった。彼がいないだけでなく、彼の仕事、彼の天才は、僕のものとされていた。僕はこのタイムラインでは泥棒で、幽霊から功績を盗んでいた。
僕は我慢できなかった。その日の残りを、 frantic で絶望的なぼんやりとした状態で過ごした。僕はクラブ中を必死に探し回り、彼の痕跡を探した——忘れられた工具、走り書きのメモ、空のチップスの袋。何もなかった。宇宙的な潮が押し寄せ、彼の原子の一つ一つを洗い流したかのようだった。
その夜、僕は眠れなかった。僕は寝具に横たわり、天井を見つめ、琢磨の不在の沈黙は耳を聾する轟音だった。僕は戻らなければならない。これを修復しなければならない。クロノリンクが唯一の方法だった。
翌朝、太陽の最初の光が窓に当たると、僕は焦げた機械へ行った。雪華の観察する目を無視して、僕は作業を始めた。僕には琢磨の技術はなかったが、彼の記憶があった——別のリョウの、別の時間の、仕事中の天才を見ている記憶だ。僕は彼がしたであろう接続をはんだ付けし直した。彼が説明しているのを覚えているように、電力の流れを再ルーティングした。
「あなたの目的は何ですか？」雪華が数フィート離れて立って尋ねた。
「これをオンにする」僕は厳しい声で言った。
「制御された成功した起動の確率は0.03％です。局所的な因果性を永久的に損なう可能性のあるカスケード故障のリスクは48.9％です」
「リスクなんてどうでもいい！」僕は声を荒げ、忍耐が砕けた。「試さなければならない！ わからないのか？ 彼がいないんだ！」
彼女は沈黙し、ただ見つめるだけだった。変数の世界における不変のものとして。
僕はお粗末な修理を終えた。手は震えていた。これだ。家への道を見つけるか、この世界に残っているものをほぐしてしまうか。
僕は深く息を吸い、主電源スイッチを入れた。
クロノリンクは唸り声を上げたりちらついたりしなかった。それは低く、響くハム音を発した。ガラス管は不気味なオレンジ色ではなく、深く、安定した青で輝いた。CRTモニターは暗いままだが、前に気づかなかった一つの小さな画面が点灯し、水のように流れる数字の列を表示した。
機能していた。違う方法で。より良く。
そして、その時、音がした。かすかな、リズミカルなトントンというタップ音。
それは、オーディオフィードバック用に琢磨が接続したスピーカーから来ていた。それはパターンだった。コードだ。
僕の息は喉で止まった。それは、プロトタイプを最初に作ったときにテスト信号として使った、単純でばかなリズムだった。彼と僕だけが知っているリズム。
信号は弱く、途切れ途切れで、まるで嵐に荒れ狂う海を越えて不可能な距離から放送されているかのようだった。
トン、トン… トン… トン、トン、トン…
彼だ。どこかで、現実の広大な分岐する木の中で、恩田琢磨は生きていた。そして彼は呼びかけていた。
信号はノイズに分解し、クロノリンクは柔らかなため息とともに電源が落ち、青い光は薄れた。しかし、メッセージは受信されていた。
僕はただランダムな枝の間を飛び移っているだけではなかった。タイムラインは繋がっていた。そして、もし信号がそれらを横断できるなら、僕もできる。
僕は雪華を見た。彼女の淡い目は今は静かな機械に固定され、初めて、僕は純粋な論理ではない何かがそこにあるのを見た。それはかすかな、何か他のものの火花だった。驚嘆？ 恐怖？
使命はもはや家への道を見つけることではなかった。それは救出作戦だった。僕は友人の亡霊を留める分岐を見つけ、彼を連れ戻さなければならない。銀河探索者には新たな目的地があった：かつて不変のものがあった虚無。
