第11章:断裂したタイムライン
琢磨の顔が目の前に浮かんで目が覚めた。彼の表情は怒りというより、臨床的な好奇心に満ちていた。クロノリンクは彼の作業台の上で暗く静かに座り、そのメインボードには明らかな焦げ跡があった。
「で」彼は眼镜を押し上げながら言った。「俺の magnificent な獣に何をした? 無許可のいじりがあったな」
僕は爆発を覚悟したが、それは来なかった。彼はただため息をついた。科学的な諦めの音だ。「一次量子バッファが焼き切れてる。昨夜のデータはめちゃくちゃだ。瀕死のハムスターの力で巨大なペイロードを送信しようとしたようだな。因果律ログは完全にぐちゃぐちゃだ」
僕が言い訳をしようとする前に、クラブのドアが開いた。アリサが入ってきた。しかし、彼女一人ではなかった。青も一緒で、二人は並んで歩き、会話していた。ただ礼儀的にではなく、楽しげに。青はアリサの何気ない言葉にさえ笑っていた。
「おはよう、二人とも!」アリサは明るい声で宣言した。彼女は青を、新しくて落ち着かない愛情を込めて見た。「朗報よ! 青さんが正式にプライム・タイムライン・クラブに加入することを決めたの! フルで、アクティブなメンバーとして!」
青は頷き、その微笑みは温かく心からのものだった。「インスパイアされたの。ちゃんとこの一員になりたいと思って」
僕の頭はクラクラした。これが僕が望んでいたことじゃなかったか? 僕の妻が、僕の世界を完全に受け入れている。しかし、二人の間の気楽さは…異質に感じられた。
「これは祝いが必要だ!」アリサは宣言した。「みんなで出かけよう! ケーキを買って、クラブ用の飾りつけも!」
「素晴らしい提案だ!」僕は同意した。銀河探索者のペルソナが自動的に発動する。しかし、奇妙な、所有欲的な本能が僕の内で燃え上がった。僕は青と二人きりになる時間が欲しかった。この新しくて幸せな現実に足を着けるために。「効率最大化のために分隊することを提案する! 青と私は祝賀用の菓子を調達する! アリサ、君と琢磨は装飾品を入手してくれ!」
部屋は一瞬静かになった。
アリサは首をかしげた。「なぜ?」彼女の口調は軽いが、目は鋭くなっていた。
「そ…それは労働の論理的な分担だ! そしてそれにより…夫婦の戦略的計画が可能になる!」
青は僕を見た。その表情は完全に呆然としていた。純粋で混じり気のない困惑の表情で、まるでドラゴンを狩りに行こうと提案したかのようだった。
しかし、アリサはただ肩をすくめ、微笑みは少し早すぎるほどに戻った。「いいわよ! あなたがそう言うなら、バズ。さあ、琢磨、ワームホールみたいな吹き流しを探しに行こう」
そうして、我々は別れた。青と僕がショッピングモールを歩いている間、二人の間の沈黙は重かった。僕は彼女が僕の手を取るのを、我々のいつもの、心地よいリズムに戻るのを待ち続けた。しかし、彼女は少し距離を置いて歩き、腕を組み、モールを見回すその視線は、まるで僕とそこに来たことがないかのようだった。
「青」僕は柔らかい声で言った。「大丈夫か?」
「え? ああ、うん」彼女は言った。小さく、恥ずかしそうな微笑みを浮かべて。それは彼女らしくなかった。「ただ…ちょっと、いろいろあって」
隔たりを埋めようと、僕は手を伸ばして彼女の手を取った。
彼女はたじろいだ。彼女の指は僕の手の中で硬直し、彼女は優しくしかししっかりと手を引き抜き、頬は明るい、恥ずかしそうな赤に染まった。
「リョウ」彼女は声を潜めた、恐怖に満ちた囁きで言った。「あなた…そんなこと、しちゃだめ」
僕は唖然とした。それは物理的な打撃のようだった。「僕…だめ? でも…君は僕の妻だろ」
彼女の目は、純粋な衝撃に見えるもので見開かれた。彼女は口を開いて話そうとしたが、言葉は出てこなかった。ただ、小さく、慌てたように首を振った。
我々は緊張と当惑の沈黙の中でケーキを買い、クラブに戻った。祝賀会は奇妙な芝居のように感じられた。琢磨とアリサは風船と吹き流しを持って帰っていた。我々は飾りつけをし、ケーキを切り、青をメンバーとして正式に歓迎した。しかし、空気は言葉にされていない緊張で濃厚だった。
そこに立つ青を見て、あまりにも美しく、しかしあまりにも遠くに感じ、憧れの波が僕を襲った。消えてしまったかのような繋がりを感じる必要があった。僕は前に出て、彼女をきつく、慣れ親しんだハグで包み込んだ。
「クラブへようこそ、我が愛しの人よ」僕は囁いた。
反応は即座で、火山のようだった。
アリサの顔は恐ろしいほど速く変化した。彼女の目は、純粋で混じり気のない衝撃で見開かれた。その衝撃はやがて燃え上がる怒りへと変質し、最終的には純粋で白熱した嫉妬の怒りの仮面へと落ち着いた。
「何てことするのよ?!」彼女は叫んだ。その声は部屋を揺るがす雷鳴だった。彼女は足を踏み鳴らして前に出て、指を僕に向けて突き出した。「説明しなさい。今すぐ!」
僕は唖然として話せず、腕を青から離した。
アリサは待たさえしなかった。彼女は怒りを青に向けた。「あなた! 下がって。今すぐ」
「アリサ、どうしたんだ?!」琢磨が叫び、二人の間に割って入った。彼の顔はパニックで青ざめていた。
「彼女は僕の妻だ!」僕はついに叫んだ。その言葉は僕からほとばしり出た、生々しく防御的だった。
落ちてきた沈黙は絶対的だった。それは真空で、部屋からすべての音と空気を吸い出した。
誰もが凍りついた。琢磨は僕を、頭が二つ生えたかのように見つめた。青は気分が悪くなりそうな顔をしていた。
アリサの怒りは消え去らなかった。それは冷たく致命的な何かに結晶化した。彼女は一歩僕に近づき、声は毒を含んだ囁きに変わった。
「もし青があなたの妻なら」彼女は言った。一つ一つの言葉が氷の破片のように。「それで、私はいったい何なの?」
その質問は、無意味で恐ろしく、空中にぶら下がった。
僕は唖然とした。「君は…君はアリサだ。クラブのメンバーだ」
恐ろしい、壊れた笑い声が彼女の唇から漏れた。涙が彼女の目に浮かんだが、それは怒りの涙だった。彼女は、僕と彼女の間の空間を歪ませるほど深い裏切りをもって僕を見つめた。それから、彼女は振り返り、我々が動くより先にドアから飛び出し、階段を駆け下りた。
クラブは粉々になった沈黙に残された。
琢磨が最初に口を開いた。声は震えていた。「リョウ…何を言ってるんだ? アリサは…アリサは君の妻だぞ」
世界が地軸から傾いた。「何?」
「君たち、付き合い始めて半年だ! 君が彼女を彼女として紹介したじゃないか! 家賃の助けにするために、彼女が先月引っ越してきた! だからクラブに金があるんだ! だから大倉船長がうるさく言わなくなったんだ! いったいどうしたんだ?!」
僕は青を見た。彼女は口を手で覆い、目は恐怖と混乱で見開かれていた。彼女はここでは僕の妻ではなかった。彼女はただの青、僕の過去の女の子で、クラブに加入したばかりだった。
僕の視線は彼らを通り越し、クロノリンクへと漂った。焦げたマザーボード。ぐちゃぐちゃの因果律ログ。僕の「失敗した」テスト。一年前、僕が青と結婚しようとしていたタイムラインへ送ったメッセージ。
携帯電話の料金、払い忘れるな。
単純で、平凡なメッセージ。しかし、それは因果律の池に投げ込まれた小石だった。それは僕の過去を変えなかった。忘れられた請求書から僕を救わなかった。
それは分岐を創り出した。
機械は失敗していなかった。
僕はもう自分のタイムラインにはいなかった。
僕はアリサのタイムラインにいた。