第9話 勇者パーティーの末路
通常時ならともかく、今は瘴気病で身体中の感覚が鈍い。
この状態で戦って勝てるのか……。
いや、勇者として、こんなところで負ける訳にはいかない……。
「喰らえ……。エクス=スラッシュ……!」
俺は全力の一撃を放つ。
しかし、ホブゴブリンに当たる前に、エクススラッシュに収束していた魔力は霧散してしまう。
「な、なんで……⁉」
俺が言葉を出した直後、ホブゴブリンの猛烈な殴打を受ける。
ベギャッ……!
勇者の鎧が悲鳴を上げる。
「……ありえねぇ……この俺がゴブリン如きに……Cランクダンジョン如きで……」
俺は口から血反吐を吐きながら考える。
なぜこうなった。能無しがいなくなった途端に、全てが狂い始めた……。
クソ、クソ、クソッ……!
更にホブゴブリンの殴打は続く。
俺は何とか盾で防ぐも吹き飛んでしまう。
サンドラとリサのすぐ近くまで、転がり込む。
クソが! なんでこいつらはこんなに使えねぇんだ……! 勇者パーティー、ルミナス・ブレイヴだぞ、俺達は……!
次の瞬間、俺の頭にヴェルの顔がよぎる。
「ククク……。ハハハハ……。ああ、そうだ。あの能無しにも一つ良いところがあったなぁ。アイテムの管理だ……。こういう危機的状況になった時に備えて、ヴェル特製の〝不浄煙玉〟があったんだ。こいつを使えば、おそらく脱出できる……」
正直、能無しの作ったもんに頼るなんざ癪だが、仕方ねぇ……。
「……オーレン、この状況どう乗り切るの……?」
サンドラが俺の顔を覗き込む。
「……能無しの道具を使って、乗り切る……」
「え⁉ あいつの道具使うの⁉」
サンドラが驚嘆を漏らす。
「しょうがねぇだろ……。リサも戦闘不能だ。時間もねぇ。使うぞ!」
俺は地面に向かい、不浄煙玉を投げつける。
辺り一面にどす黒い不浄が撒き散らされる。
不浄を吸い込んだ俺の肉体はミリミリと音を立てる。
能無しから聞いていた、不浄狂化という奴だろう。
不浄の呪いの力を使い、一時的に能力を無理やり引き上げることができる。
……ただし、寿命を削ることになる。
でも、今はそんなこと考えてられねぇ……!
「サンドラ、リサ! お前らを抱えて脱出する。前方の敵はサンドラの魔法で倒してくれ……!」
俺はエクスカリバーを鞘に収め、盾は背中に背負う。
そして、サンドラの目を見る。
サンドラの顔は黒みがかっており、血管も浮き上がってる。
不浄狂化の影響を受けているのだろう。
「わかった。今なら、強力な魔法が打てそう……。火炎放射)!」
サンドラの両手から、黒炎が放射される。
ファイア=ラジエ―ションに触れたゴブリンは一瞬で黒炭と化した。
また、強力な魔法を使うと感じ取ったのか、ゴブリン達に焦りが生まれる。
「ナイスだ! サンドラ! このまま突っ切る……!」
俺はタックルするように、出口に向かい突き進む。
どのくらい走ったのか、最早わからない。
気づけば、ダンジョンの入口まで戻ってきていた。
「はぁはぁ……何とか脱出できたな……」
俺は安堵を漏らす。
ふと、サンドラを見ると、気を失っているのがわかった。
未だに、サンドラもリサも肌が黒みがかっている。
それはもちろん俺もだ……。
「クソ……。だが、生き残るためには仕方なかったよな……」
俺は自分を納得させるように呟く。
次の瞬間、装備していた勇者の鎧やエクスカリバーが砕け散るように、消え失せた……。
「は……? 何で……⁉ あ……! 勇者の装備を身に着けるには、高潔さが最も重要だ。不浄狂化を使ったことで、高潔さが失われたのか……」
パンツ一丁になった俺は、愕然とする。
「ふ、ふざけるなァァアアア! 俺が悪いっていうのか⁉ あのまま死ねばよかったのか⁉ 俺は勇者に選ばれたんだぞ⁉ 俺は……俺は勇者なんだァァアアアア……!」
俺の咆哮は虚しくダンジョンの前に響くのみだった……。
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