第55話 神樹の実
旅立つ日。
「今までお世話になりました。俺達は行きます」
俺達は全員頭を下げる。
「英雄様方への想いを込めた〝神樹の実〟を渡したい。神樹の実には神の如き力を覚醒させる効果があると言われておる。何かの役に立てるのではないかと思う」
長がそう言い、ちょうど手のひらサイズの神樹の実を一つ渡してくれる。
神樹の実は不思議な斑模様をしている。
「ありがとうございます。ちょうど、神獣と人間のハーフの子がいますので、助かります」
俺は当たり前のようにそう言い、神樹の実を受け取る。
「……ん? 今なんと?」
長がきょとんとした表情をしている。
「神獣セラファーンと人間のハーフがいるんです。セラなんですけど」
俺はセラの頭をなでる。
「なんということじゃ⁉ 神獣と人間のハーフ⁉ そのようなことが……。いやしかし、前例がない訳ではないしの……」
長はしばらく、黙り込む。
そして口を開く。
「おそらくじゃが、神樹の実を食べることで、神獣としての能力を覚醒させることができるじゃろう。しかし、この子はまだ小さい。その負担に耐えきれるとは思えない。もっと成長してから、もしくは、よっぽど危険な時に食べるのじゃ。わかったか……?」
長はセラの目を見る。
「セラ、わかった! お腹空いても……食べない!」
セラは元気よく返事をする。
「セラ……頼むから、おやつ代わりに食べたり絶対しないでくれよ……」
俺は少しあきれつつも、注意をする。
「そうですよ。セラちゃん。神樹の実はよっぽどの時以外食べちゃダメだよ!」
ルクスハートも重ねて注意をする。
「セラ……わかった。食べる時……ヴェル様か……ルクスお姉ちゃんに聞く……」
セラは少ししょんぼりしながら答える。
「セラ、怒ってる訳じゃないからな。落ち込む必要はない」
俺は焦ってフォローを入れる。
「そうですよ、セラちゃん。食べる時はよっぽど危険な時だけにしてね、っていうだけだからね」
ルクスハートはセラの頭を何度もなでる。
「わかった。セラ……気をつけます!」
セラは機嫌がなおった子どものように、無邪気な笑顔を見せてくれる。
「うむ。十分気をつけてくれ……。それと、この先の旅で食べるものとして、木の実や獣肉も持って行ってくれ。本当はルグドを渡せればよいのじゃが、エラリヘイムでは使わないのでな……」
長が申し訳なさそうに話す。
「お気遣いいただきありがとうございます。食べ物もとても助かるので、ありがたいです」
俺はそう言いつつも、若干ルグドがよかったな、などと考える。
「ヴェル様……? 今ルグドのこと考えました?」
ルクスハートが言葉を刺してくる。
「い、いや。そんなことは決してないぞ。決してな……」
ルクスハートの勘の良さにはたまに、ドキっとする……。
「それと、私の末娘ももらってはくれぬか?」
長が真剣な顔をして話す。
「へ……? 末娘ってシェリナさんのことですか?」
俺は驚きつつ尋ねる。
「そうじゃ。シェリナがお主のことを……」
長が話している途中で、シェリナが話し出す。
「母上! 全く……。今回の戦いを見て、アタシはあんたらに惚れ込んだんだよ。それに、外の世界も見てみたいって前から思ってたしな。どうだ? 凄腕の射手はほしくないか?」
シェリナが自信満々にアピールしてくる。
「自分で凄腕の射手って言うあたり、相当自信があるって感じだな。シェリナさんとエルフの皆さんがよければ俺としては助かります。これからも困った人を助けて回る旅は続くので」
「全員納得しとるよ。では決まりじゃな。末娘のことを頼む……」
長は深々と頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。シェリナさん」
俺はシェリナの方を向く。
「おう。あと『さん』はつけなくていいよ。シェリナでいい」
シェリナは笑みを浮かべつつ話す。
「じゃあ、俺のこともヴェルでいいぞ」
「いや、それはダメだ。ヴェル殿はアタシの故郷を救ってくれたんだ。ヴェル殿はヴェル殿だ」
シェリナは当然のように言い切る。
「ええ……。俺はヴェルでいいんだけどな……」
「ヴェル殿の方がアタシとしても呼びやすいんだよ」
シェリナが明るく笑う。
「そ、そうか……? わかった、それでいいよ。……じゃあ、エルフの皆さん、今までお世話になりました!」
俺達は頭を下げる。
「英雄様方。また寄れる時はいつでも寄ってくだされ。あなた方の旅に幸あらんことを」――。




