第44話 腐乱の除去
エルフの長の家にて。
「話は聞いている。ヴェル、お主ならば、『腐乱』を取り除くことができるようだな。まずは、現状を伝えさせてほしい」
女性エルフの長は実に美しい見た目をしていた。
エルフは長寿の種族だ。威厳のある話し方から察するに、若い訳ではないだろう。
それでも、二十代ほどに見える。
「わかった。教えてくれ」
俺は静かに答える。
「ことの始まりは、五日前だ。魔王軍がここエラリヘイムに攻め込んできた。現状、何とか侵攻は止められているがな……。そして、魔王軍を率いているのが、魔王軍幹部、四天王が一角リュミセルダの配下、ブラムスド。あやつは手ごわい……」
長は悲痛な面持ちだ。
「ブラムスド……。そいつが、腐乱をばら撒いているのか……?」
俺は質問する。
「そうじゃ。奴のヘルズスキル『腐乱の風』のせいで、我らがエラリヘイムは汚されている。既に、エラリヘイムの四割ほどが腐乱の影響を受けている。このままでは、森は死んでしまう……」
長の瞳が潤んでいるように見える。
「長……! 俺のヘブンススキル、不浄宮なら、腐乱を取り除くことができる。森の中を移動させてもらってもいいか?」
俺は立ち上がり、声を出す。
「不浄宮というのか……。不浄に干渉できるとは、随分と珍しいヘブンススキルを持っているのじゃな。……わかった。我が末娘シェリナを案内役につけよう」
「なっ……。末娘……? いいのか、長の娘を案内役に選んで」
俺は驚いて声を数段大きくする。
「シェリナはエラリヘイムの中でもトップクラスの強さをしておる。大丈夫じゃよ。のう、シェリナよ?」
長はシェリナの方を向く。
「ああ、アタシなら大丈夫だ。それに、腐乱を取り除けるなら、どうやってするのか見ておきたいしな」
シェリナはギロリと俺の方を見る。
シェリナは人間でいう二十歳ほどの見た目をした、非常に美しい女性エルフだ。
長く伸ばした艶のあるライトグリーンの髪。
大きくややつり目で意志を感じさせる瞳。
出るところは出て、引き締まった綺麗な身体をしている。
「そうか。なら、安心だ。早速行こうか」
俺はシェリナを見る。
◇◇◇
俺達はシェリナの案内で、腐乱している木へ移動した。
「この辺りが、腐乱がひどいんだ。元に戻せそうか……?」
シェリナは願うように声を出す。
「できると思う。いくぞ……。《超吸収》……!」
俺の詠唱に合わせて、一気に腐乱が俺の身体に吸収されていく。
そして、木々の腐乱はなくなり、緑が戻っていく。
「これは、驚いた。本当に腐乱を取り除けるんだな……。嘘だったら、矢で射殺してやろうと思っていたんだがな……」
シェリナは冗談ではないトーンで話す。
「いや、怖っ……! そんなつもりで俺達を案内してたのか……?」
俺は恐怖でやや震える。
「ああ、すまない……。魔王軍との戦いで少々気が立っていたようだ。申し訳ない」
シェリナは頭を下げる。
「頭を上げてくれ。気持ちはわかる。まあ、過激派過ぎるとは思うがな」
俺は明るく笑ってみせる。
「このまま、腐乱のある木を案内してもいいのか? 疲れは出ないか?」
シェリナが俺を気づかってくれる。
「大丈夫だ。早めに腐乱は取り除いておく方がいいだろうしな」
俺は笑顔で応える。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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