第3話 ヒュドラの与えた影響……
教会にて。
「俺は冒険者でヴェルという名だ! ルクスハートさんはいますか?」
俺は静かな教会に響き渡るように声を出す。
「……ルクスハートは私ですが……? どうされましたか?」
ルクスハートがゆっくりと前に出てくる。
黒い修道服に身を包んでおり、ボブほどの長さの金髪が映えている。
混じりけのない緑の瞳は、全てを見透かすような、不思議なオーラを放っている。
鈴を転がすような声も可愛らしい。
「あなたが今晩生贄になってしまうと聞いて……。俺にできることがあったら、力になりたい……!」
俺は語気を強める。
「……旅の方。お気持ちは嬉しいです。ですが、よいのです。私が自ら選んだ道ですから。それに、旅の方にご迷惑をかける訳にはいきません」
ルクスハートは悟ったような顔をして、言葉を紡ぐ。
「そうだ……。傭兵団でも勝てなかったんだ……。あんた一人で何ができるっていうんだ……?」
その場にいた、中年の男が声を出す。
「その通りです。ヒュドラは一か月ほど前に現れた。それ以来、生贄を何度も要求している。要求を飲まなければ、村を毒で完全に壊滅させると脅しながら……。既に十人の娘が犠牲になっています……。傭兵団の方も入れれば、二十人を超えるでしょう……」
神父は憔悴しきった顔で話す。
「そんなに……。……俺は勇者パーティーにいたんです。毒などの不浄に対する能力を持っている。あなた方の力になりたいんだ……!」
俺はなりふり構わず〝勇者パーティー〟という単語を使った。
勇者パーティーという単語の持つ信頼感が圧倒的だということを身をもって知っているからだ。
「勇者パーティー……! もしかして、あなたが勇者様なのですか?」
ルクスハートの瞳に希望が宿る。
「いえ、俺は勇者パーティーに所属していただけです。一年間勇者パーティーにいた経験を活かしたい。どうか、俺にあなた方を救わせてほしい……」
俺は祈るように声を出す。
教会内がざわざわとし始める。
「傭兵団でも勝てなかったんだぞ……無茶だ……」
「いくら元勇者パーティーだとしても……」
「いや、でも勇者パーティーならもしかしたら……」
様々な声が聞こえてくる。
神父が一歩前に出る。
「ヒュドラは並みの人間の手に負える魔物ではないと思います。実際、傭兵団の方のほとんどが喰い殺されたと聞いています……。それでも、あなたは私達の村のために命を懸けられるというのですか?」
神父の目は語っている。
〝あなたの善意は死と隣り合わせにある〟安易に首を突っ込まない方がよいということを……。
しかし同時に、切実な希望の色も感じさせる。
「俺は……。正直言って、死の恐怖を感じています。これだけ皆さんが恐れている魔物……しかも傭兵団を簡単に潰したような魔物ですから……。それでも、俺だからこそできることがあると思っています。俺のヘブンススキルは蔑まれることが多い不浄を扱うものです。ただし、毒などの不浄に対抗できる能力があります。俺のヘブンススキルは今ここであなた方を救うために授けられたのではないかと思っています……」
俺は真剣な表情で神父の顔を見る。
「…………わかりました。ルクスハート……あなたはどう思いますか……?」
神父がルクスハートの方を見る。
「私は……。これ以上犠牲を出したくないです……。それに……。私……、死にたくない…………」
ルクスハートは震えながら、涙をこぼす……。
涙は床に無数の染みを作っていく。
「……旅の方……。あなたにこのようなことを頼むのは筋違いだとは思っています。しかしこれ以上、犠牲を出したくないです。もしも、ヒュドラ相手でも戦ってくださるとおっしゃるなら、すがりたいです……」
神父も涙を流しながら、言葉を紡ぐ。
他の村人も同じ思いだったのだろう。
「ヒュドラを倒せるなら、倒してくれ……」
「村を……みんなを救ってくれ……」
救いを求める声が教会に響き始める。
「任せてください。俺がヒュドラを倒します……!」
俺は自分の中にある恐怖を押し殺し、声高く宣言する。
「ありがとう……ありがとう……」
教会内に感謝の言葉が溢れる。
まだ、涙目のルクスハートが一歩俺に近づいて来る。
「ありがとうございます。ヴェル様……。どうか……どうか、お気をつけください。ヒュドラが毒沼に現れるのは夜の二十時となっています。私がその時間に行きますので……」
ルクスハートは目を腫らしながらも、覚悟を感じさせる声色で話す。
「わかりました。では、二十時前に合流して一緒にヒュドラのもとへ行きましょう。俺は隠れながら、追いかけます。可能なら、ヒュドラに不意打ちをしたいので」
俺はできる限り勝率を上げる方法を提案する。
「はい。では、二十時前に教会の前でお会いしましょう。どうか、神のご加護がありますように……」
ルクスハートは静かに祈る――。
◇◇◇
二十時前。教会の前にて。
「お待たせしました。ヴェル様。行きましょう」
ルクスハートは透けるような薄い布地の白布を纏っていた。
思っていたよりも大きい胸が強調されている。
それに、布の奥も見えてしまいそうだ……。
俺は煩悩の振り払うように、頭を二度振る。
「……行こう」
俺は短く答える。
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