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(序)

(ここはとあるヨーロッパの田舎街。妙齢の美女であるフランチェスカは正午の街中を歩きつつ、誰かを探している様子。街角に三人の女が話しているのを見つけたフランチェスカは、小走りで彼女たちの元に駆け寄る)


(フランチェスカ) ああ、やっと見つけましたわ。みなさん、こんなところにいらっしゃったのね。


(古びたレンガの壁のそばで、三人の女が立ち話をしている。フランチェスカに気づいた一行は、話を止める。三人の女はマリア、ジュリア、そしてエレナ。マリアは三人の中で一番身体が大きく、ふくよかである。ジュリアは最も美しく、やや派手な服を着ている。エレナは質素な服を着ているが、胸元に高価そうなペンダントを下げている)


(マリア) どうしたんだい?そんなに息を荒げて……。親父が病気にでもなったのかい?


(フランチェスカ) いえ、そうではなくて……。でも、それくらい大事なお話しですわ。私にとっては人生を左右するような重大な決断ですもの。


(ジュリア) となると、例のあの話がまとまったのね?


(フランチェスカ) ええ。その通りです。お父様も随分とお悩みになったようですが、いよいよお決めになったようでして。今朝、話を聞かされて、とても驚いてしまいましたわ。


(エレナ) でも、フランチェスカぐらいの年齢なら、ちょっと遅いくらいですけどね。それで、誰なんですか?縁談の相手というのは?


(マリア) 縁談!?話ってそのことかい!?


(ジュリア) まったく、この中で一番年上なのに、あんたは相変わらず鈍いわね。この子にとっては、いや、この子くらいの年の女の子にとっての大事件と言えば、結婚以外にないに決まってるじゃないの。前にも話してたでしょ?そろそろ決まりそうだってね。ねえ、フランチェスカ?


(フランチェスカ) ええ。でも、本当に急なことでしたわ……。


(エレナ) で、相手というのは?


(フランチェスカ) 隣町に大きな商会があるのはご存じですわね?貿易業をしている、あの……。


(マリア) ああ。あたしの宿屋にも、その商会と取引している商人が泊まりに来たことがあるね。アフリカのどこかと取引をしていて……ナイジェリアだったかな?まあ北アフリカのどっかだよ。今回の縁談っていうのは、その商会とってわけね?


(フランチェスカ) そこの御曹司様ですわ。


(エレナ) まあ!?それはご立派な殿方なんでしょうね!なんといっても、商会の跡取り息子なんですから!


(ジュリア) あんたのお父さんはいい縁談を組んだわね。これでもう、あんたは将来安泰で、何事も不安なく豊かに暮らしていけるわね。ちょっと妬くわ。まさに玉の輿じゃないの。


(マリア) おめでとう、フランチェスカ。


(フランチェスカ) ……。


(三人の祝福に対し、フランチェスカは喜ばず、暗い顔をしてうつむく)


(マリア) どうしたんだい?嬉しくないのかい?


(フランチェスカ) いえ、嬉しいですわ。なんでもその御曹司様と言うのが、大金持ちなのは当然としても、とても柔和で優しくて、女性を大切に扱うお方で、私はその方のお顔を直に見たことはございませんですけども、なかなか綺麗なお顔立ちをなさっているとの噂もあるくらいで……。


(マリア) なら、どうして喜ばないんだい?誰がどう考えても、まさに理想の男って奴じゃないか。金持ちで、ハンサムで、性格も良いとくればね?


(フランチェスカ) 私は悩んでいるのですわ!ああ!確かにあのお方が世間で言うところの立派な男性であることには間違いありません!私だってそう思っているのですわ!でも、本当にそれだけで婚約を決めてしまっていいものでしょうか!?人生でたった一度だけの婚約というものを、ただその一事でもって決めていいのかと思っているのです!ですから、私はあなた方を探していたのですわ!ぜひとも私に男というものを教えてくださいまし!あなた方は既に結婚なさっていて、男というものを熟知していらっしゃいます!この一塊の処女に過ぎない私に、男の真実というものを教えてくださらないでしょうか!


(三人は顔を見合わせて、しばらく沈黙する。その後、マリアがゆっくりと口を開く)


(マリア) そりゃあ……構わねぇさ。でも、あたしらの話を聞いて、フランチェスカ、もしかしたらあんたはその縁談を嫌になるかもしれないよ?もちろん、あたしらはいい加減なことを言うつもりは無い。これでも何年も妻っていう仕事をやってきた。男、いや、夫というものの甘いもいもよく知っているつもりだよ。だから、あたしらの話は現実的な話さ。でも、年頃の乙女というものは、現実リアルよりも夢想ロマンを見ていた方が幸せってこともあるんじゃないかい?なあ、そうだろう?


(ジュリア) そうね。特に世間様のご高説を信じて一生を送りたいって思ってる、おめでたい人にとってはそうね。


(エレナ) ジュリア、そんな言い方は……。


(フランチェスカ) しかし……しかしですよ!?私はそれでも事実を知りたいのですわ!この世の中には嘘か本当かわからない流説が溢れていて、当たり前を信じてひどい目に遭うことだってあるくらいなのですから!人様の言う綺麗事を信じて騙される人は多くいるのです!常識は悪魔ですわ!私は嘘もおべんちゃらもまっぴらごめんです!私はただ真実の愛を……そうですわ!ほんとうの愛を知りたいのですわ!


(マリア) わかった、わかった。フランチェスカ、あんたの熱意はよくわかったよ。それじゃあ……どうする?ジュリア、エレナ、あんたらは?


(ジュリア) 私は別にいいわよ。だって、フランチェスカのお願いだもの。断る理由が無いわ。


(エレナ) 私も同意です。むしろ、私はフランチェスカの考えを立派なものだと思います。真実を求めることは、神を信じる我々ヨーロッパの人間としては、当然の義務ですからね。


(エレナは小さく目立たないように胸の前で十字を切る)


(マリア) さぁて、可愛いお嬢ちゃん?それじゃあ、あたしから話してあげようねぇ。ほら、もっとこっちに近寄りな?こんな話、大きな声で大っぴらにするもんじゃないからねぇ。ジュリアもエレナも。よし、それじゃあ……始めようかねぇ?


(三人とフランチェスカは顔と顔が触れそうなほど近づく。マリアは頭をにゅっと上に突き出し、周りに誰もいないことを確認してから、頭を戻す)

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