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顔合わせ

 久々に並んで立つ二人の姿を、ギルドの受付嬢が目を細めて見ていた。


「ほんとに、珍しいわね。そのコンビで動くなんて」


「俺もそう思う。最近は、こいつも偉くなっちまって。隊長職とかやってんだぜ?」


 ラークが軽口を飛ばすと、ゴルザンが無言で横目を向ける。


「お前もだろ」


「お、反応早い。これは今日は雨降るかもな」


 今回の依頼は、地方伯爵家の令嬢・リシェ=メレッタの王都への護送だ。

 高額報酬に見合ったリスクがある案件だった。


「政略結婚絡みの移送だそうです。お察しの通り、事故を装った妨害の可能性も否定できません」


「で、今回は騎士団との混成部隊ってことか」


「ええ、護衛には伯爵家直属の騎士団が八名。副官付きです。その補佐として、あなたたち冒険者班を選抜しています」


「頼りにされてんのか、されてないのか……まあ、俺らが“外”ってことだな」


 ラークが肩をすくめる。


 冒険者班は四名。

 ゴルザン、ラークの二人に加え、斧を担いだ大柄の戦士・ブロック。

 そして、スカウト兼補助魔法のエルフ、エルナ。


 エルナは他の三人と距離を取り、壁際に立っていた。


「へえ、エルフか。久々に見るな」


「私からすれば、人間の大味な戦術のほうが珍しいけれど」


「うわ、刺さるねえ。ま、頼りにしてるよ、エルナちゃん」


 ラークは笑ってかわすが、ゴルザンの眉がピクリと動いた。




***




 数日前に受けた護送任務。

 今日の顔合わせは、事前の作戦確認とメンバーの顔合わせを兼ねている。


 ギルドの作戦室には、護衛に関わるメンバーが一堂に会していた。

 冒険者班は、ゴルザン、ラーク、ブロック、エルナの四名。

 対して、伯爵家から派遣された騎士団は八名。その副官を務めるのは、やや若いが冷静沈着な男だった。


 副官は地図を広げ、指示棒でルートをなぞりながら説明を始める。


「この道を通ります。表向きには商隊に随行する形を取り、目立たないよう進みますが──」


 副官が一か所で動きを止める。


「妨害があるとすれば、ここの峠が最も可能性が高い。地形的に見通しが悪く、待ち伏せには最適です」


 ゴルザンが地図を覗き込み、眉をひそめた。


「だったら、ルートから外すことはできねえのか?」


 副官は眉一つ動かさず答える。


「できません。この先で婚姻先の騎士団と合流するために迎えが予定されている。日程に遅れが出ると、政治的な問題に発展します」


「……結婚相手がそれほど偉いってことか」


 ゴルザンがぽつりと漏らす。エルナがちらりと目を動かし、副官がぴくりと反応した。


 ラークが小さく咳払いをして、ゴルザンの肩を小突く。


「おい。余計な詮索は野暮ってもんだ」


「……ああ、すまない」


 エルナは壁際で腕を組みながら、視線を地図に向けたまま言う。


「なるほど、峠で仕掛けるなら、火力より数で押すか。馬車が足止めされたら、護衛を分断できる」


「君は冒険者にしては冷静だな」


 副官が声をかけると、エルナは肩をすくめた。


「種族の特性よ」


 そんな空気の中、後ろからおずおずと声がした。


「あの……皆さん、お疲れさまです。リシェ=メレッタです」


 整った顔立ちに控えめな笑みを浮かべた令嬢が、会釈する。


「あなたがエルナさん?……なんだか、頼もしい方で安心しました」


 エルナの目がわずかに見開かれた。


「そう見られたのは、久しぶりかも」


 そのやりとりを遮るように、副官が一歩前に出る。


「リシェ様、そろそろお戻りください。準備の確認がございます」


 リシェは一瞬、躊躇うように副官を見たが、黙ってうなずき、その場を離れた。


 ラークが地図を見ながらぽつりと漏らす。


「晴れるといいな、本番の日は」

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