プロローグ 俺にバディはいらねえ
冒険者ギルドの受付で、ひときわ大柄な若者が腕を組んで立っていた。
長身に分厚い肩、背中には無骨な大剣。髪は短く刈り込まれ、目元は鋭い。
強面というより、もはや恐怖を感じさせる類の男だった。
「ゴルザン、だっけ?」
背後から軽い声が飛んできた。
「俺と組まされるって話、聞いた? ま、よろしくな」
ひときわ軽い声に振り返ると、そこには派手な笑顔を浮かべた男がいた。
年齢はゴルザンより少し上。背丈もそこそこ、がっしりした体格に重装の鎧。
そして手には大きな盾と片手剣。
「……」
ゴルザンは返事をしなかった。
「おいおい、無視はひどくない? ま、口下手そうではあるけど」
男は勝手に隣に並ぶと、受付のカウンターを叩いて言った。
「二人組の登録、ラークとゴルザン。依頼はBランクの魔物討伐、森の掃除ね」
ゴルザンの目がわずかに動いた。
「……一人でやれる」
「へえ、頼もしいじゃん。でも残念、ギルドが“お前一人じゃ危なっかしい”って判断したんだと。俺、そういう『はみ出し者の保険』にちょうどいいらしい」
からからと笑うラークに、ゴルザンは一言も返さない。
ただ、わずかに表情が歪んだ。
「ま、気持ちはわかるけどな。俺も昔、ソロ志向だったからさ。けど、あんまり突っ張ってると、命を落とすぜ?」
軽口を叩きながらも、どこか経験のにじむ言葉だった。ゴルザンは無言のまま、ラークの顔をじっと見る。
「ま、無理に仲良くしようとは言わないさ。でも命預け合う関係になるわけだ。最低限、背中は預けられるようにしたいかな」
その言葉に、ゴルザンの眉がわずかに動く。
「……足は引っ張るなよ」
「はいはーい。あんたこそ、勝手に突っ込まないようにね」
ラークはひらりと肩をすくめると、受付嬢から渡された依頼書を軽く掲げて見せた。
「さ、じゃあさっそく初陣といこうか、バディさん?」
こうして、ゴルザン=ルクトザークとラーク=ジャッカロウの、最悪なバディ生活が始まったのだった。