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第8話 火龍との死闘

その瞬間、火龍が首を振り、広範囲に火炎を吹きつけた。地面が爆ぜ、仮設の木製防壁が一瞬にして崩れ去る。兵たちは四方に逃げ惑い、熱風に吹き飛ばされながらも命を守ろうと必死だった。


火龍の炎は、他の地龍とは桁違いだった。範囲、温度、破壊力、そのすべてが群を抜いていた。


リリィは咄嗟に結界を張り、周囲の兵士数名を包み込んだ。

「結界、展開・中範囲防御!」


淡い青白い膜が展開され、火炎を逸らす。

だが、結界の外では、複数の兵士が炎に巻かれ、叫び声を上げながら倒れていく。


魔法使いC

「リリィ、火龍の熱に結界が持ちません!限界が近いです!」


リリィは唇を噛み、即座に判断を下した。

「3重結界で耐熱しましょう。合わせて!」


彼女が指を振り抜くように動かすと、先の結界魔法陣の上に新たな二重の陣が重なるように描かれた。

魔法陣同士が干渉しないよう計算されたその構造は、瞬く間に三重の防御層を形成した。


まばゆい光が結界の周囲に重なり、外の熱を完全に遮断する。内部の温度が安定し、兵士たちはその中で立ち上がった。焦げた鎧を脱ぎ捨てた若い兵士が、リリィに向かって拳を握った。


兵士

「助かりました。!魔法使い様!」


リリィはうなずくだけで返し、すでに次の術式の組み上げに移っていた。外では、火龍がなおも咆哮を上げながら、次々と地を焼き尽くしていた。翼の一振りごとに、火炎が乱反射し、仮設陣地の半分が火に包まれていた。


将軍の怒声が響いた。

「槍兵隊、前へ!ミスリルの穂先を信じろ!足を狙え、翼を狙え!」


槍兵たちが声を張り上げながら、突撃を開始した。

前線では、ミスリル製の穂先を取り付けた長槍が、火龍の硬い鱗をかすかに穿ち始めていた。だが、火龍の巨体は動きが鈍るどころか、さらに激しく暴れ始めた。


そのとき、後方で一人の男が前に出た。


ジャック

「俺が何とかしよう」


彼はマジックバッグから古びた魔法陣の巻物を取り出し、地面に叩きつけるように展開した。


その魔法陣は土属性の高等召喚術式。複雑な文様が地面に広がり、揺れを伴って大地が膨れ上がった。

次の瞬間、巨大な土の拳が地面を突き破り、数体の土ゴーレムが姿を現した。


ゴーレムの一体は人の三倍の体躯を持ち、頭部に王国の紋章が刻まれていた。

火炎の中をものともせず、土ゴーレムたちはゆっくりと火龍に向かって歩を進めていく。


ジャック

「そいつらは、火には強い。頼んだぞ!」


ゴーレムたちは火龍の下半身に突進し、左右から殴りかかった。

火龍は咆哮を上げ、爪で応戦したが、土の体は一撃では崩れず、逆にゴーレムの腕が火龍の鱗をはがすように叩き込まれていた。


リリィはその隙を見逃さなかった。


リリィ

「大結界!」


彼女が掲げた指先から、巨大な魔法陣が火龍の頭上に展開される。

次の瞬間、火龍の首元を中心に、大きな光の球が展開された。


火龍が炎を吐こうと口を開いた瞬間、その炎は結界内に封じ込められ、渦巻きながら火龍の顔面へと逆流した。


咆哮が轟き、火龍は苦悶のうねりを見せた。その顔面に自らの火炎が襲いかかり、鱗が焦げついて割れ、皮膚が露出し始めていた。


だが、それでも火龍は立ち上がり、翼を広げて空を揺らした。

異常なまでの耐久力。通常の地龍とは一線を画す存在だった。


リリィ

「将軍!火龍の火炎は抑えました。今なら、攻撃ができます!」


将軍は即座に指揮台から跳び下り、剣を振り上げながら叫んだ。


将軍

「よし、全員、総攻撃開始!」


その言葉に、兵たちは一斉に駆け出した。弓兵たちが翼を狙って矢を放ち、槍兵が足を突き、魔法使いたちは支援と強化を続けた。


そして、リリィとジャックが築いた結界とゴーレムの盾の上から、反撃の狼煙が、確かに上がった。火龍の咆哮が山々に響き渡る中、将軍の「総攻撃開始」の声を受け、兵たちは前線に突撃した。ミスリルの穂先を携えた槍兵たちは、火龍の脚部を狙って一斉に打ち込む。ゴーレムたちも連携し、両腕を振り下ろして火龍の動きをさらに鈍らせていく。


リリィが構築した大結界は、火龍の頭部を囲み炎を遮断し続け、後方の魔法使いたちが安定して詠唱できる環境を支えていた。


ジャック

「まだだ。あの翼を折らない限り、あいつは空に逃げる!」


ジャックが叫び、魔法使い隊に命じる。

「対空陣を構えろ!狙いは左の翼根だ!」


魔法使い達が応じ、複数の雷属性の魔法弾を編成し始めた。空中に組み上げられる雷陣から、蒼白い雷光が音もなく集まり、やがて一点に収束していく。


リリィはその隙を逃さず、火龍の動きを完全に止めるために魔力をさらに注ぎ込んだ。


リリィ

「大結界!強化」


結界がさらに強化され、火龍の頭部と首元に縛りを加えるように光が絡みついた。

その動きを封じられた火龍が、空に向かって無理やり飛び上がろうと翼を広げる。


将軍

「今だ、撃て!」


魔法使いたちが雷撃を一斉に放ち、火龍の左翼を貫いた。雷光が鱗を焦がし、翼の関節部を破壊する。

火龍の身体が一瞬浮かび、だが、翼が機能を失ってそのまま墜落した。


そのとき、再びジャックが動いた。彼の手には、最後の召喚陣があった。


ジャック

「これでとどめだ!」


彼が展開したのは、大型の槌を装備した強化型の土ゴーレムだった。地面からせり上がるようにして現れたその一体は、ゆっくりと火龍の頭部へと歩み寄る。


火龍は翼を破られ、口を開いて再び火を吐こうとした。

だが、そこにはすでにリリィの結界が再展開されていた。


リリィ

「大結界 強化!」


光の壁が火龍の口元を覆い、火が結界内部に留められ、再び火龍自身の顔を焼く。


火龍が暴れ、地を這いながら体をよじらせた。翼が折れ、頭部が結界に縛られた今、動きはもはや鈍い。


ジャックの召喚したゴーレムが、振りかぶった巨大な土槌を火龍の首に叩きつけた。


激しい衝撃音が山肌にこだまし、火龍の首の鱗が砕ける。二撃、三撃と続けて打ち下ろされ、ついに火龍の瞳から光が失われていった。


将軍が剣を振り上げた。


将軍

「全軍、最後の突撃!とどめを刺せ!」


兵士たちが雄叫びを上げ、火龍の体へと一斉に駆け寄った。槍が、剣が、斧が赤黒い皮膚に突き立てられ、最後の一撃を加える。


火龍の身体が痙攣し、ついにその巨体が力なく崩れ落ちた。その場にいた全員が、しばし音を失い、ただその結末を見つめていた。


リリィは、深く息を吐いた。

「終わった・・ようですね」


ジャックが隣で、額の汗を拭った。

「まったく、無茶苦茶だ。こんなやつを何体も相手にしてたなんて、正気じゃねえ」


将軍が歩み寄り、リリィとジャックの肩を順に叩いた。

「お前たちがいなければ、あの火龍は倒せなかった。王に報告する価値がある戦だった」


その言葉に、陣地のあちこちから歓声が上がり始めた。

兵士たちは互いに肩を叩き、抱き合い、涙を浮かべて勝利を噛みしめていた。


そして、赤い火龍の骸は、戦いの終わりを告げるかのように、ゆっくりと灰となり、大地に消えていった。

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