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第7話 地龍群と火龍出現

戦いの朝、山は深い霧に包まれていた。谷から立ちのぼる霧は、まるで地中の魔素が蒸気となって吹き出しているかのようだった。空は厚い雲に覆われ、太陽の光は届かず、地面をうっすらと青白く染めていた。


山肌に築かれた仮設陣地では、兵たちが無言で準備を進めていた。甲冑の留め具を締め直す音、槍の穂先にミスリルの小片を取り付ける金属音、魔法使いたちの小さな詠唱の声、それらが静かな緊張の中に溶け込んでいた。


その中央、地図を広げた指揮台に、リリィは一人立っていた。全軍の防御結界の要を担う彼女は、今日の戦いでどれほどの魔力を消費するかを計算し、すでに何度も結界の組み方を確認していた。


そのとき、背後から聞き慣れた声が響いた。


ジャック

「リリィ、今回は俺も出ることになった」


リリィは振り返り、やや驚いた顔で彼を見た。


ジャックはいつもの近衛服ではなく、戦闘用の軽装鎧を身にまとっていた。肩には小さな王家の紋章があり、腰の剣はすでに鞘から半ば抜かれていた。


リリィ

「姫の護衛任務中だったのでは?」


ジャックは肩をすくめて答えた。

「姫の許可はもらった。こういう時こそ、剣を振るべきだってな。王女も、お前と同じで強い意志を持ってる。お前の結界の中で戦えば、俺も少しは生き延びられると思ってな」


リリィはほんの少しだけ口元をほころばせた。

「分かりました。ともに戦いましょう」


ジャックはにやりと笑って、手袋を締め直した。


・・・・・


遠く、山の裂け目から咆哮が響いた。直後、地面が振動し、五体の地龍が、煙を巻き上げながら地の底から姿を現した。


将軍が軍旗を掲げ、大声で叫んだ。

「全軍、突撃!」


号令とともに、五千の兵たちが怒号を上げて前進した。

リリィの背後では、魔法使いたちが魔力を高め、各自の魔法陣に力を注ぎ込んでいた。


リリィ

「第一陣、展開開始。各自、結界、詠唱開始」


魔法使い

「了解!」


魔法使いたちは5人を1グループとして、各自、それぞれの目標の地龍に向かったいった。


地龍たちはそれぞれ別方向に分かれ、軍を分断するように動いていた。尾を一振りするだけで数十人の兵士が吹き飛んでいく。


だが、兵たちは怯まなかった。射手たちは高所から矢を放ち、騎士団は左右から地龍の脚を狙って斬りつける。


その戦場の中心で、リリィは淡い光をまといながら、指先で空中に魔法文字を走らせていた。


リリィ

「結界!」右足を拘束した。


一体目の地龍の動きが鈍った。

続けて、魔法使いたちが連携し、四肢をそれぞれ結界で拘束し始めた。


だが、そのとき、二体目の地龍がリリィの陣地に接近した。

防衛線が崩れかけたその瞬間、将軍が馬を走らせて前に出た。


将軍

「行かせるか!」


炎をまとった剣が地龍の鼻面を裂き、反撃を止めた。

その背後で、リリィが叫ぶ。


リリィ

「結界!」


二体目の地龍の左前脚が固定された。


リリィ

「結界!」


首筋が光の帯に包まれ、動きが鈍る。


リリィ

「大結界!」


頭を大きな結界が囲んで発動し、ようやく地龍の動きが止まった。


リリィ

「二体目、封印成功!残り、三体!」


彼女の声が戦場に響き、結界班の魔法使いたちが呼応するように各持ち場で詠唱を開始した。

リリィが展開する魔法陣は、すでに地面一帯を覆い、その輝きはまるで聖域のように周囲を照らしていた。


魔法使いたちは疲労の色を隠せないながらも、仲間の声に背中を押され、再び魔力を集中させていた。


魔法使いA

「第三の個体、拘束準備完了!」


魔法使いB

「左脚、右脚、同時にいけるぞ!」


各隊が連携して放つ結界魔法は、まるで糸を紡ぐように精密で、徐々に敵の動きを封じていった。

巨大な地龍たちは足元を縛られ、口を開けても咆哮しか出せず、攻撃の手を止められていく。


リリィは中央に立ち、全体の魔力の流れを制御し続けていた。指先から紡がれる光の線は、まるで大地と交信しているかのようだった。


そのときだった。


地面が低く唸るように震え、風が逆流した。結界班の魔法使いたちの集中が一瞬揺らぐ。


兵士の一人が、裂け目の方角を指差して叫んだ。


兵士

「何か来るぞ!赤い影が、いや、あれは・・・!」


次の瞬間、地の裂け目が大きく裂け、真紅の炎を纏った巨大な影が姿を現した。漆黒に焼け焦げた地表から、灼熱の火柱とともに現れたそれは、火龍だった。


その鱗は溶鉱炉のように赤黒く輝き、眼光はまるで燃え尽きる直前の炭火のようにじっとりと熱を帯びていた。翼を広げたとき、空気が歪み、地上の草木は一瞬で焼き尽くされた。


将軍が怒号を飛ばした。


将軍

「火龍だ!火炎が来る、避けろ!」

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