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第3話 地龍あらわる

 砦は、山腹に位置する古い石造りの要塞だった。かつては国境を守るために建てられたが、今は放棄されて久しかった。それでも、砦はしっかりと残っており、防衛拠点としては十分な強度を持っていた。


 魔法使いたちは砦の地下に篭もり、巨大な魔法陣を組み始めた。一方、将軍の命を受けた兵たちは、砦の周囲に罠を設置し、交代制で見張りを続けた。


 昼は静かだった。だが、夜になると、魔物たちは容赦なく押し寄せてきた。ゴブリン、オーク、魔狼、さらには見たこともない異形の魔物までが、闇の中から姿を現した。


 戦いは苛烈だった。剣と爪がぶつかり合い、悲鳴と怒号が砦を震わせた。だが、回復魔法の使用は許されなかった。すべての魔力を魔法陣に捧げていたからだ。


 リリィも砦の一角に身を置き、結界の維持や怪我人の応急処置を行っていたが、限られた道具と魔力の中では、できることは限られていた。


そして、七日目の朝。砦の中に重い鐘の音が響いた。


魔法使い達の長

「準備が整いました。今から結界魔法を発動します」


全魔法使いが亀裂の縁に集まり、手を重ねた。空気が震え、魔法陣が輝き始める。


魔法使いたちの詠唱とともに、巨大な光の網が裂け目の中に展開された。露出したダンジョン全体がその光に包まれ、魔物の出口が閉じられていく。


次に、魔素の源となっていた紫の濃霧 魔素だまりにも、光の膜がかけられた。魔素の流れが遮断され、ダンジョンは徐々に静けさを取り戻していった。


将軍は静かに呟いた。


将軍

「これでもう、ダンジョンから魔物が出て来ることはないだろう」


その背に、リリィが小さく頷いていた。だが彼女の瞳は、まだ戦いが終わっていないことを感じていた。


魔法使いたちが巨大なダンジョンを封じた直後、静寂が山全体を包みこんだ。風が止み、空気が凍るような緊張が広がった。まるで、何かが息をひそめていたかのように。


次の瞬間、大地が震えた。地割れの奥深くから、地鳴りのような音が響き、裂けた岩の隙間から眩しいほどの魔素が溢れ出した。そして、地の底から、それは現れた。


巨大な影が地割れから這い上がり、その姿を見た誰もが言葉を失った。高さは小山ほどもあり、全身を黒曜石のような硬い鱗に覆われた、巨大な地龍。目は深紅に燃え、背中には鋭い棘が幾重にも突き出していた。


リリィは思わず息を飲み、その場に立ち尽くした。魔素を栄養源に眠っていたこの地龍は、魔法使いたちの封印により養分を絶たれ、怒り狂って目覚めたのだった。


その咆哮は空を裂き、兵たちの心に恐怖を刻み込んだ。


将軍は馬上から剣を抜き、全軍に声を張り上げた。


将軍

「皆の者!この地龍を倒さねば、我々が生きて帰ることはできぬ。武器を構えよ、戦え!」


兵士たちは血に濡れた剣を再び握りしめ、半ば消耗しきった体を奮い立たせて隊形を整えた。

彼らの顔には疲労の色が濃く浮かんでいたが、将軍の声に背を押され、次第に戦意が戻っていった。


しかし、地龍の鱗はあまりにも堅かった。剣も槍もはじき返され、矢は表皮にかすり傷すらつけられなかった。


将軍

「魔法使いたちよ、武器に強化魔法をかけよ!」


前線に控えていた魔法使いたちは頷き、それぞれの手から魔力を放って、兵たちの武器を強化していく。

特に、将軍の背に携えた巨大な大剣には、数名の魔術師がかりで複合強化魔法が付与された。


魔法使いA

「剣に、穿孔の力を付与します!」


魔法使いB

「火と雷の複合属性を重ねます!」


剣が赤と青の炎をまとい、金属が唸るような音を上げて振動した。


将軍は大きく吠えた。

「行くぞおおおっ!」


馬から飛び降りた将軍は地面を蹴り、地龍に真っ向から突撃した。巨体の一角を目掛けて大剣を振り下ろすと、強化された刃は地龍の鱗を一部剥ぎ取り、その下の筋肉を切り裂いた。


地龍は痛みに反応し、怒りの咆哮とともに暴れ回る。しかし、その一撃を皮切りに、兵たちも動いた。

彼らは将軍の戦意に引っ張られるように地龍を囲み、あちこちから攻撃を加えていった。


だが、戦闘が始まって一時間が経過したころには、様相が一変していた。


将軍の息は荒く、肩で呼吸していた。兵たちは既に半数近くが負傷し、地面に倒れていた。

魔法使いたちも魔力の残量が尽きかけ、補助魔法すらままならなくなっていた。


そんなとき、将軍は最後の希望を放った。


将軍

「剛弓、放て!」


命令と同時に、砦の奥から現れたのは、攻城戦用の巨大な弩弓。人の背丈ほどもある鋼の矢が、風を切って地龍の背中へと突き刺さった。


地龍は怒り狂い、尾を振り回し、兵士たちを吹き飛ばしていった。爪で砦の一部を削り取り、地響きを伴って突進した。やがて、裂け目の方へと向かい、逃げようとするかのように体を傾けていった。


そのとき、砦の上に立つリリィが叫んだ。


リリィ「結界!」


リリィの魔法陣が瞬時に発動し、地龍の左足を巨大な岩とともに縛りつける。バランスを失った地龍が、ずしんと音を立ててよろめいた。


リリィ「結界!」


次の魔法が発動し、地龍の尻尾が岩とともに封じられる。動きがさらに鈍くなる。


リリィ「結界!」


今度は右足の先を固定。


リリィ「結界!」


右腕が封じられる。


リリィ「結界!」


左腕も結界に捉えられ、ついに地龍はその場で完全に動きを止めた。


リリィ「大結界!」


地龍が右腕を解こうと、右手の結界に噛みついたとき、さらに、その首を右腕と岩とともに、さらに大きな結界で封じた。


地龍が吠えるが結界の中で声はくぐもっている。


リリィ

「これで、身動きできないわ!」


将軍は振り返り、鋭く命じた。


将軍

「兵よ、全員でかかれ!龍の腹を削れ!弓兵たちよ、龍の眼を狙え!魔法使いたち、結界をさらに強化しろ!」


リリィの結界が戦場の流れを変えた。兵たちは最後の力を振り絞り、槍で、斧で、巨大な龍の腹を切り裂いていった。弓兵の放った矢が龍の眼に突き刺さり、地龍は最後の断末魔を響かせながら、ついにその巨体を崩した。


地面が揺れ、大きな土煙が舞い上がる。

静寂が戻った。


将軍は剣を下ろし、リリィに向かって歩み寄った。


将軍

「リリィよ、助かった。お前のおかげで、地龍を倒すことができた」


リリィは小さく首を横に振った。

「いいえ、私はただ、微力ながらできることをしただけです」


将軍は微笑み、彼女の肩に手を置いた。


戦いの後、地龍の肉は丁寧に解体され、焚き火の上で焼かれていった。魔素を多く含むその肉は栄養価が高く、兵たちは久しぶりに力を取り戻した。彼らの目には、希望の灯が戻っていた。

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