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第52話:その後

 爆発のあと、「文豪」連続予告殺人事件の犯人は、外科医森脇が犯人として処理された。飯島と海苔巻あやめは花園芽亜里から全ての真実を聞かされながら、それを上には報告しなかった。


 彼女が命をかけて守りたかったもの……子どもたちの生活と未来。彼女の境遇やこれまでの行動を知ったら子どもたちの未来を優先させざるを得なかった。これが爆発前に彼女が言った「2人に真実を言わせない方法」だった。警察とて警察である前に一人の人間だ。全てを明らかにしても誰も得はしない。そんなことをしても、フリースクールの多くの子どもたちの未来が閉ざされるだけ。彼女は全てを事前に話すことで真実を突き詰めたいという正義感や好奇心というものにとどめを刺していた。今となっては一連の事件の真実を公表しようという気は2人にはなかった。花園芽亜里は実に人間の心理の底の底まで理解していると飯島は思った。


 いずれにしても医師の森脇が逮捕され、フリースクールの子どもたちはそれぞれ施設に収容された。県や市はやればできる。ただ数が多すぎて優先順位があるだけだ。今回の事件をきっかけに世間の話題になり、注目されその優先順位が上がったのだ。


 2人はまたあの神社の境内に来ていた。遠くを眺めて広い景色を見て、嫌なことをなんでも忘れられるあの神社に。


 そこであの日、花園芽亜里の家の前で見たことを思い出していた。


 花園芽亜里は洗いざらい犯行を自白して自分の家に入った。着替えを取ると言っていたが、2人は彼女が逮捕される前に父親に別れの挨拶をしにいくのだと思っていた。だからそれを許した。


 ところが、彼女の家のリビングでは父親の目の前で爆弾を取り出した。一瞬のことだった。全てがスローモーションのように見えた。花園芽亜里は全てを終わらせるつもりだったのだろう。母親は既に他界している。そこから全てが狂い始めたから。父親を道連れに自分も死ぬ気だったのだろう。1人で全ての罪を被って。


 ところが、父親は爆弾に気が付くと、それを奪って家の奥に走った。できるだけ娘から離れた位置に爆弾を移動させたのだ。爆弾の威力はドローンボムのそれより大きくリビング内の家具を破壊し、ガラスを割り、リビング内の2人を吹き飛ばした。花園芽亜里をかばった父親は死亡。そして、当の芽亜里は吹き飛ばされケガはしたものの、命に別状はなかった。父親は花園芽亜里をかばったらしい。


「あいつはまた病院で入院生活再開かよ……」

「メアリたんケガ酷かったっすね……」


 飯島は少し鼻の頭を触った。


「最後、父親は反射的に娘をかばったんだろうな。DV親でも一応、子どもは大切って思ったのか……そうだったら唯一救いだよな」

「そっすねー」


 フリースクールHOPEの子どもたちはバラバラではあるが施設に収容された。今まで行き場がなかった子どもたちは急に世の中に助けられた形だ。皮肉にも今回の事件が彼らを救ったことになる。


「おまっ! それ、俺が食べようと思って買ったいわい餅だろ!」

「あれー? 4個買ったから、2個ずつで分けてくれると思ったんすけど、違うんすか!?」


 半分食べた餅を飯島に返そうとする。


「いーよ! いーよ! 食えよ! たしかに分けてやろうと思ったよ!」


 どうやら勝手に食べたので意地悪言っただけのようだった。


 花園芽亜里たちは本当にあそこまでしないといけなかったのだろうか。色々な方法はありそうだが、その選択肢が彼女たちの手の中にあったかは疑問である。


 飯島は警察署に戻ることにした。ポケットからジャラっと鍵を取り出して海苔巻あやめに見せた。


「帰りがけ、お前運転するか?」


 嬉しそうな顔をする海苔巻あやめ。


「サイレン鳴らしていいっすか!?」

「普通にダメだろ! 絶対やるなよ!?」


「それは、『押すな押すな』的な?」

「ぜっったい違うからな! やめろよ!? 始末書書かされるからな!?」


 警察署に戻って行く2人の影。今更ながらコンビ誕生でいいのかもしれない。





箱入り娘とステルス連続予告殺人〈了〉

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― 新着の感想 ―
完結お疲れさまでした。 完全なバッドエンドではなく、ビターエンドという感じでしょうか。シロのおねえちゃんが出てこないなとは思っていましたが、フリースクールの子供におねえちゃんと呼ばれているのをみて、…
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