第41話:正義か悪か
フリースクールHOPEを出て2人は近くに来たからと安陰総合病院の花園芽亜里のお見舞いに行くことにした。フリースクールから病院へは健康体なら歩いて行ける距離だった。2人は歩きながら話していた。
「お前、どう思った?」
「子どもたちはみんな優秀っした。小学生の女の子が等比数列やってたんすよ!」
期待した答えと違ってなんと返そうか無言になる飯島。
「それにしてもすごかったっすね! 飯島さん!」
「ん? なにが?」
急に褒められて気持ち悪さを感じた。
「スマホすよ! 前回来たときに個人スマホをわざと置いていったんでしょ!? 次も来れるように!」
「あぁ……」
やっと海苔巻あやめがなんのことを言ってるのか理解した飯島。
「いや、あれ支給された方の携帯」
「ダメじゃないっすかー!」
飯島は渋い顔をして続きた。
「あとな……普通に落としてきた。携帯。探してたんだよ。もう、あそこしかないと思って……」
「ダメダメじゃないすか! 私のリスペクトを返してくださいっす!」
海苔巻あやめがお笑いのツッコミのようになってしまった。
「まあ、それはいいんだけどさ……」
「全然良くないっすけどね。警察からの支給品失くすって……」
彼女は先輩を半眼ジト目で見た。
「……それより子どもたちだよ。DVとかいじめとかから避難した子どもたちだろ? あんなに集まってわいわいできるもんかね?」
「どーーーっすかねーーー。私もひとりが好きなんすけど、完全にひとりになったら、今度は誰かに会いたくなるんすよねぇ……」
「複雑なお年頃かよ」
子どもがひとりで自立するなんて不可能だ。普通、子どもは大人を頼るもの。あの子どもたちは、それが許されないと過激な方法で理解させられた子どもたち。
人は大人でも子どもでも危機感を持ったら頑張るもの。命の危機を感じたときは、いのちがけであがくもの。彼らの頑張りはそれなのだろう。そこらの子どもより頑張っているし、能力が高いのは皮肉なものだった。
「この間、テレビでやってたんすけど……」
「うん?」
「厳しい家庭の子でスマホも携帯もダメで、パソコンもタブレットもゲームもインターネットもダメな家庭の子の話だったっす」
「たまにあるな。そんな家」
「ある日、お父さんのクレジットカードに数万円の請求が届くっす」
「詐欺だな」
そんな詐欺の話は毎日のようにあって、もはや普通ではニュースにもならないほど日常化している。ちっともいいこととは言えないがそれが現実だ。
「ところが、調べてみたらその家のお子さんがゲームで課金してたんす」
「ん? どうやって? こっそり親のパソコンでも使ったのか?」
なぞなぞかクイズみたいな気分で少しだけ興味が沸いた飯島。
「親御さんもそう思って家中のスマホとかパソコンを調べたけど使われた形跡はなかったんす」
「友だちのスマホを借りたとか?」
「そうじゃなかったんす。なんか通信講座でタブレット付いてるのあるじゃないすか。なんとかチャレンジみたいなの」
「あぁ、そういえばテレビCMとか見るな」
「あれのOSを初期化してAndroidタブレットとして使えるようにしてたんすよ!」
「そんなの小学生にできるのか!?」
さすがにそれは盛りすぎだろうと、ちょっと責める要素も含めての返事だった。
「小学校の友だちから聞いてタブレットとして使えるようにしたらしいっす。その友だちはネットで調べて自分のタブレットを初期化してたらしいっす。子どもたちは大人が思うよりも柔軟で能力は高いのかもしれないっすねぇ」
「……」
子どもたちが大人顔負けのことに挑戦しているのは、飯島としては「挑戦させられている」と感じていた。しかし、自らの環境で、自ら強くなろうとした結果だとしたら、それを手助けするフリースクールHOPEは悪いことをしているのだろうか。
その答えは子どもたちの表情に出ていたのではないだろうか。あの笑顔はそこらの子どもよりも子どもらしかった。
7時にもう一話公開




